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名刺情報のデジタル化で目指す
組織的にビジネスを推進する体制への変化

今、私たちは急激な少子高齢化やカーボンニュートラル、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、さまざまな変化の真っただ中にいます。ビジネスの現場でも「データを制する者がビジネスを制す」といわれるように、戦略的なデータ活用が収益に直結します。そこで、企業にとって「変化」することや名刺情報のデジタル化の重要性について、日本を代表する経済学者である学習院大学教授(東京大学名誉教授)の伊藤元重氏にお話を伺いました。

伊藤 元重

東京大学 名誉教授、学習院大学 国際社会科学部 教授

1951年、静岡県静岡市生まれ。経済学者。専門は国際経済学、ミクロ経済学。東京大学経済学部卒業。ロチェスター大学大学院経済学部博士課程修了、同大学院にて経済学博士号(Ph.D.)取得。東京大学名誉教授。学習院大学国際社会科学部教授。復興庁復興推進委員会委員長。主な著書に『ネットニュースではわからない本当の日本経済入門』(2021年)、『ビジネス・エコノミクス』(2021年)など。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」におけるコメンテーターなど、各メディアにも多数出演。

DXによる「リカバリー」が
企業の持続的な成長のポイントに

2020年から続くコロナ禍は経済に深刻な打撃を与えました。また、世界的に脱炭素の動きが広がるなど100年に一度の大変革期といわれている中、2022年以降の経済の状況をどのように予想されていますか。

伊藤氏

コロナ禍から経済がどのように復活していくかを語るとき、よく「リバウンド」と「リカバリー」という2つのキーワードが用いられます。「リバウンド」は悪い状況からの反動、「リカバリー」は持続的に変わっていけるかどうかという意味です。2021年は、多くの人が新型コロナウイルス感染症への対応に慣れてきた面もあり、世界的にも共存していく方向にシフトしているように感じています。経済も落ち着きを取り戻しつつありますので、2022年はある程度の「リバウンド」が期待できると思いますが、日本政府が経済を活性化させるためにどのような政策を打ち出すかによっても変わってきます。ただ、変異株が次々に登場していることもあり、しばらくは一喜一憂する状況が続きそうです。

日本では、DXへの取り組みが非常に遅れていたことが、経済発展の遅れにもつながりました。この事実に危機感を持って動いていけるか、これまでのやり方を変えてDXによって「リカバリー」できるかが、今後、企業が持続的に成長していけるかどうかのポイントになってくると思います。

「変化にどう対応するか」が、
企業の生き残りに重要なキーワード

コロナ禍でテレワークの導入が進んだことは、少子高齢化の日本にとって、多様な働き方が選べる第一歩だったように思いますが、このインタビュー時点で日本では新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収まっていることもあり、出社率を上げている企業が増えています。しかし、100%コロナ禍以前に戻すのではなく、テレワークと出社のハイブリッドを選択する企業が増えていくことが、これからの日本には必要だと感じています。

伊藤氏

テレワークやオンライン会議は、すでに企業が継続していくために必須のツールになっています。コロナ禍が収束することで、一部を過去の働き方に戻す動きはあるかもしれませんが、営業活動の現場でも対面とオンラインをうまく使い分ける方が増えているように、完全に以前と同じ状況に戻すことは難しくなっていると思います。

ある鉄道会社の社長とお会いした際にお聞きしたのですが、日本では人口減少や高齢化によって鉄道利用者が減っていくことが避けられないため、10年後、20年後を見据えた経営について以前から議論していたそうです。ところが、予期しないコロナ禍によって、本来なら数十年後に減っていくはずの乗客がある日突然消えるという、近未来を経験することになりました。そこで、乗客の減少を前提とした鉄道事業の組み直しに、これまで以上のスピードで着手することに。コロナ禍によって大学ではオンライン授業が、医療の分野でもオンライン診療が始まるなど、デジタル活用による近未来では当たり前の便利な世界を多くの人が経験しました。今後もデジタル化の動きは加速していきますし、その波に乗ることができなければ、多くの企業では経営の継続が難しくなるでしょう。

DXについては、経営者の指示の下順調に推進している企業と、経営者のリーダーシップが発揮されず取り残されている企業の二極化が進んでいるように思います。

伊藤氏

このところ、大手企業では経営者が旗振り役となって着々とDXに取り組まれていますが、今急がなければいけないのは、日本で大多数を占める中小企業です。この問題については、中小企業に融資する銀行の方々も同様に考えられていまして、支援の動きが始まっています。先日、あるメガバンクの専務さんが「企業の数は大手よりも中小の方が圧倒的に多い。銀行が取引する多くの中小企業の人たちがDXで事業を拡大していけるよう、デジタル化をサポートする事業をやっていく」とおっしゃっていました。CMでは多くのITツールを見かけますが、それらを活用してビジネスを拡大していく手段をご存じない方々もいます。そのような企業に向けて、銀行が自らサポートしようとしているわけです。銀行と中小企業は非常に親密な関係にありますし、DXによって事業が拡大する方向に向かうことはお互いの利害が一致しますから、この動きが本格化すれば一気に状況が変わってくるのではないでしょうか。

DXは単純にアナログな作業のデジタル化ではないので、困りごとに対してうまくデジタルを取り入れるヒントを求めている方が多くいらっしゃるように思います。

伊藤氏

大手医薬品卸売事業会社が運営する調剤薬局が、業務を効率化するために取り入れたデジタル化のお話は、なかなか面白いアイデアだと思いました。調剤薬局では薬を処方してお客さんに渡した後、薬の種類だけでなくどのような対応を行ったのかを記録として残す規定があります。しかし、次々とやって来るお客さんの対応をしながら記録を取るのはなかなか大変で、ひとまずメモを残して営業終了後にまとめて対応する人も。ところがメモも取れないほど忙しく、記録を残せない大問題が発生します。そこで事態を改善するために導入したのが、お客さんの音声を文字にする音声認識です。調剤薬局での会話は名前や体調などに限られているので、薬剤師がうまくリードして記録に必要な内容を聞き出せば、後は自動で文字が入力されるため、業務の効率化に役立っているそうです。図1

人手不足への対応は企業が提供しているサービスによって異なりますが、DXの原型は本来のビジネスからバックキャスティングして、今、取り入れるべきテクノロジーが何なのか、どのサービスを利用すればビジネスモデルが進化していくのかを考えることだと思います。単にデジタル化すれば魔法のように変われるものではないことは理解しておく必要があります。

ハーバードのビジネススクールでは日本企業の成功事例が多く使われているそうですね。DXが欧米や中国から2周遅れといわれるなど、日本が世界から取り残されていくのではないかと不安になっていましたので、とても意外に感じました。

伊藤氏

業界によって変化の性格は異なりますが、変化に対応して成功した企業の教材としてハーバードのビジネススクールがよく使用するのは、富士フイルムの事例です。メインビジネスだったフィルムが衰退していくなかで、医療や化粧品などの異なる分野で新たに成功を収めるプロセスがとてもわかりやすいからでしょう。企業が生き残るために重要なのは「変化にどう対応するか」だと思います。

このところ、 変化のスピードが非常に速くなっているのを感じます。300年以上続く老舗の中には変わらなくても揺るがない企業もあるかもしれませんが、多くは変化しなければ生き残っていけない時代です。自動車業界はまさにその典型で、ガソリンから電気へのシフトを加速しています。

このところ、日本でも2050年までのカーボンニュートラル実現の動きが活発になってきているように思います。

伊藤氏

ガソリン車から電気自動車に変わるということは、自動車の中身が変わってしまう大きな変化です。また、自動車そのものの変化だけでなく、もう1つ、さらに大きなポイントとなるのが、業界構造の変化です。周知のとおり、自動車業界はピラミッド構造で成り立っています。自動車メーカーに直接部品を提供しているのが「Tier1」、その下に「Tier2」「Tier3」と続き、これまではこの構造によって優れた製品が生産されてきました。電気自動車では、自動車を組み立てるメーカーよりも上位に来る「Tier0」が登場するのではないかといわれています図2 。例えば、とても強力なリチウムイオンバッテリーを作ることのできるメーカーが出てきたら、電気自動車だけでなく航空機などさまざまな業界がそのメーカーの製品を使いたいと思うはずです。トヨタも日産もホンダも、メルセデス・ベンツやBMWも、電気自動車によって同じメーカーの部品を使わなければ競争に勝てないような、これまでの常識を覆す産業構造の大きな変化が訪れるかもしれません。

業種等によって違いはありますが、中小企業が変化する上で共通のポイントはありますか?

伊藤氏

「ブランド化」がキーワードの1つになると思います。変化のパターンが多様な中小企業が生き残りをかけて変化に挑む際、頼りになるのがブランド化を意識したデジタル化なのかもしれません。岩手県陸前高田市で200年以上続く老舗の醤油屋さんは、東日本大震災における津波の被害で工場を失いましたが、クラウドファンディングを利用した再建を行い、事業を軌道に乗せました。大きな力を発揮したのは、顧客となった出資者の口コミです。彼らがSNSで発したコメントが拡散され人気を得た結果、商品の購入者はオンライン販売を通じて全国に広がりました。以前は、地元の取引先やメーカーに醤油を卸すことが事業の中心でしたが、インターネットを利用したことによる変化がブランド化に結びついた事例といえるのではないでしょうか。

顧客と継続してつながるためには、
機械的な処理が重要になっていく

これまで名刺情報をデジタル化してシステム管理してこなかった企業・組織が名刺管理システムを導入することは、少なくとも営業活動に変化をもたらすように思うのですが。

伊藤氏

名刺情報のデジタル化と聞いて、数年前にアメリカに行った際、ある百貨店が巨大IT企業と一緒に小売業向けのプロジェクトに取り組んだ話が出たのを思い出しました。レシート情報をデジタル化する実験だったのですが、紙の名刺情報をデジタル化する目的もこれと同じではないかと思います。買い物をした際にもらう紙のレシートは、家計簿を細かくつけている人以外は、ポケットに入れてそのまま放置したりすぐに捨ててしまうことが多いのではないでしょうか。前述の百貨店では、顧客との関係が商品の購入だけで終わってしまっている状況を変えたいと、Amazon等のECサイトで購入したときのような電子レシート化を目指していました。デジタル化によって顧客の消費行動の連続性が把握できるとともに、顧客からSNSのアカウント情報が入手できれば、SNS上でも顧客とのコミュニケーションが可能になり、紙のレシートを渡すだけよりも、優良顧客になってもらい関係を継続できる可能性が広がるからです。日本では以前から、有名な衣料品メーカーや日用品メーカーがスマートフォンのアプリケーションを使って、同様の取り組みを行っていましたが、あれはとてもポテンシャルが高いサービスだと思います。図3

某衣料品メーカーのアプリケーションを使っていますが、自分が住んでいる地域の気温に応じた商品を提案してきます。おそらく、居住地域や過去の購入履歴等からAIが機械的に勧めているのだろうと想像しています。

伊藤氏

B to B(Business to Business)に置き換えても、今後は取引先や顧客と継続してつながるための機械的な処理の重要度が上がっていくと思います。名刺もこれまでは、すぐに捨てはしないまでもケースに入れて保管するのみで、多くの企業・組織ではデジタルデータを活用した顧客との継続的な関係の構築までに至っていなかったのではないでしょうか。

弊社に中途入社した社員数名にヒアリングしてみたのですが、前職での名刺管理サービス利用者は0人、Excel等に情報を入力して個人で管理していたのは1名だけで、後は名刺ケース等に入れて保管しているのみという結果でした。

伊藤氏

企業・組織内で情報を共有できる体制の構築には情報の共有が重要で、個人という閉じた世界の管理ではその人の退職とともに名刺情報も消えてしまいます。できれば個人管理ではなく、企業・組織で管理する仕組みを構築し、横断的に情報を共有できる状態にしておくことがビジネスの機会損失を防ぐことにもつながります。その前段階として、名刺情報をデジタル化することが、今後の企業活動には必須になっていくのではないでしょうか。図4

退職する社員とともに名刺情報を失わないために、新しい所有者を登録して関係を継続することが重要。

名刺情報をデジタル化して集中的に管理できるようになれば、見込み客を効率的に発見できると思うのですが、日本企業の多くは業務の線引きが曖昧で、結果的に名刺を交換する頻度の高い営業の方に管理をお任せすることになってしまっているように感じています。名刺管理もほかのシステムと同様に、個人に任せるのではなく情報システム部門で組織的に管理するようになれば、企業の利益につながる変化が期待できるような気がします。

伊藤氏

そのとおりだと思います。この状況は30年以上前に、ある大手証券会社の方たちから聞いた話と似ています。その当時の株式手数料はとても高かったので、証券会社にとって大口顧客との関係の継続が収益確保には欠かせませんでしたが、バブル経済だったこともあり、そのような顧客を何万、何十万と抱えていました。しかし、顧客への対応はすべて担当の営業に任されていたため、信頼を獲得した担当営業しか把握できていない情報が多く、その営業の退職とともに顧客との関係も解消されてしまう状況もあったそうです。その後、会社としてこの状況は非常にまずいと危機感を持つようになり、データベースの作成に着手されました。

日本の企業は海外と比べると利益率が低く、常に新たな顧客を増やして売上利益を伸ばしていかなければならないため、新規顧客を獲得することは最優先タスクの1つです。しかし、既存の取引先から継続した受注があると、現状に満足されてしまうことも多いように感じます。新規のお客様と名刺を交換した時点では契約が成立しなくても、今は変化の激しい時代なので、お客様のニーズは変化する可能性があります。そのときチャンスを逃さないためには、名刺情報を企業が管理することの重要度が増していくのではないでしょうか。

伊藤氏

同感です。デジタル化の重要なポイントの1つはビッグデータの解析です。その基本情報となる名刺データが、企業の中に存在している意味は非常に大きいのではないでしょうか。今後、ビッグデータの活用がさらに進めば、名刺管理サービスを提供されるSkyさんに分析のサポートを期待するユーザーが増えていくように思います。図5

DXに必要なのは、
誰もがわかりやすいと感じるサービス

私どもでも、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)などとの連携の必要性を感じていまして、将来的には実現する予定です。お客様やお取引先に対して、社員がどのように関わっているのか、そもそも今の売り上げが適正なのか、利益が出ていない事業に対して関わっている社員が多すぎないかなどの状況を見える化したいと考えられている企業は多いと思いますので、その支援ができればと考えています。

伊藤氏

DXでは過去のデジタル化とは違い、これまでシステム更新の妨げとなっていたカスタマイズを行わず、以前よりも低コストで新しいシステムを導入する企業・組織が多いのが特徴です。特殊なカスタマイズを行わないことで、価格面でも一部の大手企業しか取り入れられないものではなくなっていますし、スマートフォンからも手軽に操作できるようなツールも増えているように思います。

あるテレビ番組で、デジタル庁の方が日本のデジタル化が遅れた理由の1つはツールのわかりづらさではないかとおっしゃっていました。確かに、これまでITツールの多くが一度見ただけで誰でもすぐに使えるようなものではなく、難しそうだと感じる人が多かったのではないかと思います。

伊藤氏

iPhoneが登場したとき、多くの人々がそのシンプルな操作性に感動しました。ソフトウェアやサービスが多くの人に使われるためには、ITを使いこなしている人でなくてもわかりやすいと感じてもらえることはとても重要だと思います。

戦略的な営業のために
名刺は個人から組織管理へ

先日、自らITオンチと言っている弊社の事務職の社員が「SKYPCEは、私でもすぐに使えた」と言っていましたので、普段、ITよりも対面のコミュニケーションを得意としている営業の方々にも同じように感じていただけたらと思っています。また、デジタルデータを活用した営業スタイルへの変化にもお役に立てたらと。そして、お客様の事業拡大に貢献していくために、さらに使いやすく便利なツールに育てていかなければと思います。そのために、弊社自身が新たなチャレンジを続けていきます。

伊藤氏

「Japan as Number One」といわれ日本経済が元気だった1970~80年代は、誰もが新しいことへのチャレンジに貪欲でしたが、この20~30年の間にすっかり守りに入り変化を恐れるようになってしまいました。大学生を見ていても、留学生の方がチャレンジすることに貪欲で、成績も上位に来る傾向があります。以前、私の教え子にTOEICで満点を獲得した帰国子女がいたのですが、卒業後はその英語力を生かして海外で働くものだと思っていたところ、競争が厳しい海外よりも安定して落ち着いた日本がいいと言うので驚きました。企業の内部でも変化と競争を避ける傾向が続いた結果、日本は競争力を失ってしまったように思います。しかし、長年キープしていたGDP(国内総生産)2位を中国に明け渡して以降、前向きに変化しようとする人が増え始めています。これまで個人で管理していた名刺を組織での管理に移行することは、デジタルデータを活用した戦略的な営業スタイルへの変化です。変化に対応する武器の1つとして取り入れ、成功体験を得ることで強い日本が育ってくれたらと願っています。

(「SKYPCE NEWS vol.1」 2022年2月掲載 / 2021年11月オンライン取材)

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