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Sky株式会社

公開日2026.10.23

生成AI時代に問われる営業の“暗黙知”の生かし方

著者:Sky株式会社

生成AI時代に問われる営業の“暗黙知”の生かし方

営業における役割を細分化した欧米のいわゆる「分業型」の営業スタイルを導入したものの、思ったような成果が得られないという悩みを抱える企業は少なくありません。なぜ、欧米で成功している仕組みが、日本ではうまく機能しないのでしょうか。実は、その根底を追究すると日本型営業ならではの「強み」が見えてきます。その「強み」とは何なのか。そして、その強みを最大化するために生成AIという新たなテクノロジーをどう活用すべきなのか。同志社大学大学院ビジネス研究科の高広 伯彦 教授に伺いました。

高広 伯彦 氏

同志社大学大学院
ビジネス研究科 教授

高広 伯彦 氏

博報堂、電通にて、大手ブランドのマーケティングコミュニケーション企画やデジタルマーケティングの戦略立案に加え、自社の新規事業開発や合弁企業の設立に従事。Googleでは、広告商品のプロダクトマーケティング、セールスマーケティングを担当し、YouTubeの日本市場導入に携わる。その後、マーケティングおよび事業開発の支援会社を起業。加えて、BtoBデジタルマーケティング支援会社の創業や、米国系広告テクノロジー企業の日本市場代表にも携わる。またベンチャー企業投資ほか、日本のスタートアップ支援にも関わる。社会構想大学院大学の特任教授を経て現職。

SKYPCE コラムサイト編集部

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「SKYPCE」を開発・販売するSky株式会社には、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、ソリューションアーキテクト、JDLA Deep Learning for GENERAL / ENGINEERなどの資格取得者が多数在籍しています。それらの知見をもとに、名刺の管理効率化だけではなく、より戦略的に活用範囲を広げた「名刺によるDXの実現」を目指しています。

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日本の「eigyo」には、
“組織の分断”を生まない強みがある

近年、欧米の営業スタイルを取り入れ、マーケティングや営業などの役割を分業する企業が増えているように思います。

おっしゃるとおり、インサイドセールスやフィールドセールスなど役割を細分化し、リレーのように案件を渡す分業型モデルを取り入れる企業は増えています。

もちろん、欧米の分業型モデルには多くの優れた点がありますが、単純に飛びつくのではなく、本当にそれが自社の営業スタイルに合うのかを見極めることが重要です。

欧米の「セールス」は主に契約書を交わす(クロージング)までの役割を担い、契約後はほかの部門へ引き継ぎます。一方、日本の営業は顧客開拓から契約後の関係維持、さらにはアップセル・クロスセルまでを包括的に担当することもあります。

両者の違いは大きく、私の知人の研究者は海外で発表する際に、「Sales」ではなく、あえて「eigyo」と表現するほどです。

この前提を無視して分業の仕組みだけを導入すると、営業本来の強みが発揮できなくなったり、現場の混乱を招いたりする原因になりかねません。

欧米の仕組みを取り入れるだけではうまくいかない背景があるのですね。

日本の企業組織を見ると、営業部門の傘下に、マーケティングやプロモーションの機能を持つ、営業企画や営業推進という名称のチームを設置しているケースが多くあります。つまり、営業部門の中にマーケティング機能が内包されているのが、日本の組織の特徴の一つなのです。図1

一方で欧米では、組織的にもマーケティングとセールスが完全に分かれています。そして、この徹底した分業が結果としてマーケティング部門とセールス部門の分断や対立を生み出しています。

その現状を受け止めて、マーケティング界の世界的権威であるフィリップ・コトラーらが、2006年に『セールスとマーケティングの戦争を終わらせる(Ending the War Between Sales and Marketing)』という共著の論文を発表しました。

そこで分析されている対立の原因も、やはり「分業」にあるとされているのです。分業体制が組織の中に壁をつくってしまっている。だから最終的には、セールスとマーケティングは一つの組織にするべきだ、というのが彼らの提案でした。「日本ではすでにそれを実現していますけど」という感じですよね。

日本の営業スタイルだと、購買側も一人の担当者が継続して対応してくれることに安心感を持ってくれそうですよね。

はい。例えば製造業では、部品や原材料の供給が止まると生産活動が停滞してしまいます。

重要なのは「安定供給」であり、それを担保するには、強固な信頼関係が不可欠です。そう考えると、取引先をコロコロと変えるよりも、継続的にお付き合いできる相手の方が安心です。

「リレーションシップマーケティング」ともいわれますが、BtoBの取引において、この顧客との「良好な関係性」が極めて重要になります。

近年よく用いられる「ライフタイムバリュー(顧客生涯価値:LTV)」はまさに、一度の取引で完結させるのではなく、顧客と長期的な関係性を築いていくなかで価値を最大化していくという考え方です。これは実は日本になじみやすいものなのです。

個人が抱える「勘と経験」を
生成AIで「集合知」に変える

その反面、一人の担当者が多くのプロセスを抱え込むと、属人化の原因にもなりそうです。

そうですね。だからこそ、SFA(営業支援システム)やMA(マーケティングオートメーション)ツールを導入する日本企業は多いのですが、結果的にツールがうまく機能しないケースをよく耳にします。

それは結局のところSFAが、受注に至るプロセスを細分化して管理する「パイプライン管理」という、欧米の分業型営業を前提に設計されているからです。SFAやMAツールは、商談件数などの「定量的なデータ」をフェーズごとに管理するのにたけた仕組みなのです。

パイプライン管理の仕組みを持っていない、あるいはかたちだけ分業をまねたような企業がツールを導入したところで、活用し切れないのは当然だといえます。

日本の営業においては、お客様との人間関係や商談中に語られた微妙なニュアンスといった「定性的なデータ」の重要性が高く、それを従来のSFAだけで管理するのは困難でした。

日本型の営業において重要となる「定性的なデータ」は、システムで共有することに難しさがありますよね。

はい。実は1970年に、フィリップ・コトラーが『マーケティングにおけるコンピューターの未来(The Future of the Computer in Marketing)』というエッセーを書いています。その中で彼は、「人間の『勘と経験』が定量化され、コンピューターの活用が進むだろう」という予言をしていました。

しかし、そこで言及されていたのはあくまで「定量化」、つまり勘と経験を「数値化」して分析することでビジネスを効率化していこうという発想だったんです。

これまでのITシステムは、「定量化」という限界があったのですね。

そうなんです。しかし、今急速に活用が広がる「生成AI」の本質はまったく異なります。生成AIは、言葉や文脈といった定性的な情報を扱える。これこそが、生成AIの極めて大きなポイントです。

つまり、優秀な営業担当者がお客様とどうやりとりしているか、優秀なマーケターがどうやって顧客に刺さるコンテンツを作っているかという「経験に基づく知(暗黙知)」を言語化できれば、それをそのまま活用できるようになる。

そうしたノウハウを集めて言語化し、生成AIに学習させれば、個人が抱えていた「暗黙知」を組織全体で共有可能な「集合知」に変えていくことができるのです。

組織的に集めた「集合知」はどう生かせますか。

大きく2つの活用方法があります。1つ目は「従業員の育成」です。

どんなビジネスでも、先輩たちから学んでいく「修行的なプロセス」が存在しますよね。このプロセスにおいて、組織の集合知を学習した生成AIがあれば、若手メンバーが、そのAIと対話を繰り返し自律的に学ぶことで、成長を促すことができます。

そして2つ目は、「アイデアの壁打ち」です。

実際のビジネスの現場では、競合の動きや顧客の予算状況など、商談ごとの細かい「文脈」は都度異なります。そうした個別具体的な状況において、「この文脈なら、どんなアプローチの選択肢があるか」を一緒に考え、アイデアを出すサポートをしてくれるのです。まさに、頼れる思考のパートナーです。

一方で、定量的なデータは、AI時代においてどう扱えますか。

もちろん、定量的なデータも重要です。SFAなどに蓄積した定量的なデータをAIに読み込ませれば、営業プロセスのどこにボトルネックがあるかといった分析を行ってくれます。

数字の分析や定量的なデータモデルの理解が苦手なビジネスパーソンに代わって、この複雑な作業を「肩代わり」してくれるわけです。AIは、この「定量」と「定性」のどちらにも活用できる。営業活動の幅広い場面で役立つツールなのです。

定量・定性データのAI活用で、営業担当者の仕事を代替したり、思考をサポートしたりできるのですね。

はい。後は、お客様からのヒアリング内容も蓄積すると、営業活動のサポートとしてさらに有効だと思います。

マーケティングには、顧客が望むことと売り手が提供したいものの「認識のズレ」を表す「顧客インサイト・ギャップ」という言葉があります。このズレは、「自社内の知識」だけで考えていても埋まりません。実際にお客様の生の情報も含めて判断する必要があるのです。これまでは、文章などの定性データの読解・分析は時間がかかる作業でした。しかし生成AIは、蓄積した顧客の定性データの本質を、高い正確性を持ってスピーディーに抽出してくれます。これは実務において、非常に使い勝手の良いものです。

そもそも自分の暗黙知を言葉にして定性データ化することが、課題になりそうだと感じました。

そうですね。「自分の経験や仕事のコツを、言葉にして語れる人はほとんどいない」と考えるべきです。

ですから、自分のノウハウを自分で言語化するのではなく、インタビューなどを通じて第三者が問いを投げかけ、言葉を引き出していくプロセスを設計することが重要です。これは文化人類学や心理学、広告マーケティングのリサーチにおいても用いられる、有効な手法だといえます。

AIを育てる「最高のデータ」は、
人間ならではの「対話」と「経験」の中にある

SFAなどを活用して日々の営業を記録・蓄積していくことも重要でしょうか。

重要だと思います。ただ、日々の活動を記録する上でハードルとなるのが入力の手間です。ですから、今後はSFAなどにおいても「音声入力」が普及すると思います。

商談が終わった後に、「今日の商談ではこんな話をしました」と音声で吹き込み、それをAIが自動で成形してくれる仕組みです。

そうすれば、商談後に1分間、あるいはたった15~30秒間話すだけで、要約された営業日報が完成し、蓄積されていく。例えば「1日たった15秒で済む営業日報」のような手軽さがあれば、現場も無理なくデータを蓄積していけますよね。

どういった情報を蓄積していくのかは、担当者ごとにばらつきが出そうです。どのように解消すればいいでしょうか。

例えば、営業担当者が音声で商談内容を入力した際、もし必要な情報が抜けていたら、AIの側から「今日の商談で、競合の動きについては何か言及していましたか?」などと問いかける仕組みがあるといいですね。図2

これは、生成AIが対話型のインターフェイスだからこそできる強みです。足りない部分は、AI側が質問して埋めさせればよいのです。

これまでのSFAは、ユーザー自身が「何をどう入力するか」を考え、キーボードをたたいたり、たくさんのプルダウンメニューから選択したりしなければなりませんでした。だから現場は「面倒くさい」となる。

今後はそうではなく、ユーザーが忘れていることや入力し切れなかったことを、システム側が能動的に聞き返して引き出せばいい。対話の中で、自然と必要なデータが蓄積されていく仕組みを作ることが重要だと思います。

SFAに限らず、ビジネスでより広く生成AIを活用するために、意識すべきことは何でしょうか。

それは生成AIを「どう使うか」という設定や設計が重要だということに尽きます。

例えば、営業担当者の商談の記録から、「自社製品について、複数の顧客が改善を望んでいる共通課題は何か」をAIに導き出させたいとします。それには、「データから『製品の改善要望』を抽出する」ように、AIを設計する必要があります。これは人間にしか担えない部分です。

こうした「どういう目的でAIに分析させるか」という大本を設計する役割を、私は「Architect(設計者)」と呼んでいます。

それと同時にこれからは、異なる役割を持った複数のAIエージェントを組み合わせて業務に配置する時代です。その全体を指揮・調和させる「Orchestrator(指揮者)」としての役割も、人間に求められます。

私はこの設計者(アーキテクト)と、指揮者(オーケストレーター)という2つの役割を掛け合わせ、これからのビジネスを率いる存在を「オーキテクト(Orchitect)」と名づけました。図3

「Orchitect(オーキテクト)」となってAIを活用する目的を設計し、複数のAIエージェントを適切に配置し、コントロールしていく視点こそが、今何より重要になっているのだと思います。

設計には、やはり営業やマーケティングにおける深い知識や経験が欠かせないように思います。

そのとおりです。生成AIと対話していると、まるでAI自身が新しいアイデアを生み出す「創造性」を持っているかのように感じるかもしれませんが、そうではありません。生成AIは「すでに過去に学習したデータ」の中からしか答えを出すことができないのです。

一方で、人間はこれまで経験したことがない未知の状況に直面したとき、自ら考えて新しい解決策を生み出せます。この人間ならではの創造的な対話や経験こそが、AIをより賢く、より使いやすく“育てる”ための「最高のデータ」になる。つまり、AIを活用するデータの源は、ほかでもない、人間自身が日々行っている営業活動やマーケティング活動の中にこそ、無数に眠っているのだと思います。

組織の規模が小さければ、あえてシステムを入れて活動をデータ化したり、AIを活用したりする必要はないのでしょうか。

それは違います。むしろ少人数の会社や中小企業ほど、SFAなどのツールの恩恵は大きいと思います。

「うちは人数が少ないから、みんなの日報を見れば現状はわかる」と言う人もいますが、それはあくまで「今、この瞬間」だけの話です。

営業活動のデータがきちんとたまっていれば、過去のデータから今の課題を解決するヒントを見つけ出すことも可能です。SFAやAIの導入を、単なる手間を削減するツールとして捉えるのではなく、「貴重な活動データを未来のために蓄積する。そしてAIの力を使って、ビジネスを『拡大』させる」と捉えるべきです。

単なる効率化ではなく、ビジネスの「拡大」のためにテクノロジーを活用するのですね。

そのとおりです。お客様と直接会って信頼関係を築く「営業活動」そのものは、生身の人間にしかできません。特にBtoBの世界では、関係性の構築こそがビジネスの根幹ですから。

しかし、AIによる日々の入力サポートやデータ分析によって、情報整理などに使っていた時間の30%が削減されれば、その浮いた30%の時間をAIには決してまねのできない「お客様と直接向き合い、関係性を深める時間」に投資できるようになります。

「AIに仕事を代替される」と不安になるのではなく、蓄積された日々の営業活動のデータを生かし、AIを味方につけてビジネスを拡大していく。そんな「Orchitect」としての視点を持ってテクノロジーを主体的に活用する企業と人材が、今後の市場を力強く切り拓いていくのだと、私は考えています。

(「SKYPCE NEWS Vol.26」 2026年10月掲載 / 2026年7月取材)