営業提案・ターゲティングの精度を高める企業情報の活用法!

営業活動において、顧客企業を理解することは、提案の質やターゲティングの精度を左右する重要な要素です。長年にわたり財務情報や決算情報といった幅広い企業情報を収集し、金融機関や事業会社などに提供してきた株式会社東洋経済新報社の執行役員 データ事業局長の永野 健一郎 氏に、営業活動における企業情報の活用についてお話を伺いました。

株式会社東洋経済新報社
執行役員 データ事業局長
永野 健一郎 氏
東洋経済新報社
東洋経済新報社は、1895年、日本で最も歴史の長いビジネス誌となる『東洋経済新報』(現『週刊東洋経済』)の創刊とともに誕生しました。以来一貫して、経済の健全な発展に寄与することを事業活動の軸に据え、雑誌、書籍、データベース、広告各事業や、今日では「東洋経済オンライン」をはじめとしたデジタルメディア事業も幅広く展開。事実やデータに基づく公正中立な視点から情報を提供しています。
投資先・営業先の選定、学術研究に活用できる信頼性の高いデータ
まずは、貴社のデータベース事業についてお聞かせください。
当社は1895年の創業以来、データを重視した言論活動を行ってきました。『会社四季報』をはじめとする刊行物を通じて、企業情報の提供と蓄積を続けてきた実績があります。
1980年代に入り、銀行や証券会社などの金融機関を中心に、コンピューターを活用した企業データの利用が進んだことを背景に、当社が保有する企業データを提供するサービスを開始しました。現在も上場企業を中心に企業情報の収集を行い、国内外の金融機関や大学、投資機関などにデータを提供しています。
データ事業局の役割についてお聞かせください。
データ事業局では、『会社四季報』や当社が提供する各種データ商品のうち、数値データや基本情報の収集を担っています。具体的には、財務情報や役員情報、株主情報といったものです。
『会社四季報』においては、企業の特色を紹介する企業プロフィールや業績予想といった数値以外の部分は、編集局の記者が執筆・作成し、それぞれの専門性を生かした役割分担の下で制作しています。
また、データ事業局は、膨大な企業データの収集・編集に加えて、企業への販売・提供までを一貫して担っています。いわゆる“生販一体”の体制でお客様にデータを届けているのが特長です。
具体的にどういったデータを提供されているのでしょうか。
提供しているデータは多岐にわたりますが、大きく3つの用途に分類できます図1。

1つ目は、金融機関を中心とした投資先企業の選定などに活用されるデータです。決算短信・有価証券報告書の情報をはじめ、当社独自の業績予想、事業構成、大株主に関するデータなどが含まれます。
2つ目は、営業先の選定や顧客リストの作成といった営業活動に活用されるデータです。具体的には、上場企業の国内子会社および関連会社をまとめた関係会社データが挙げられます。また、グループ企業に、上場企業、主要な未上場企業、外資系企業を含めた日本の会社データ4万社。日系企業の海外進出状況を調査した海外進出企業データなどが該当します。
3つ目は、大学や研究機関での学術研究を目的としたデータです。具体的には、CSRや役員情報、地域経済などに関するデータが挙げられます。
このように幅広い企業情報を収集し、さまざまな切り口でデータベースとして整理。現在、約60種類のデータ商品を提供しています。
本当に幅広くデータを提供されているのですね。
そうですね。上場企業については、各社に担当記者がおり、約4,000社を網羅した情報を提供。公開情報の確認に加えて、継続的に取材を行い、企業の動向を網羅しています。
また、独自のアンケート調査も実施し、企業の基本情報をはじめ、四半期末ごとの従業員数のような公開されていない数値情報などについても収集しています。
従業員数の増減は、事業の拡大や再編、グループ化などの動きを示す指標となるケースもあるため、企業の成長フェーズや投資状況を把握する上で重要な情報です。幅広く情報を収集することで、公開情報だけでは読み取れない企業の変化をつかむことができます。
アンケートと取材で、まさに独自の情報収集を行っているのですね。
はい。『会社四季報』の制作においては、先ほどお話ししたとおり、記者が公開情報を確認するとともに、企業の担当者への直接取材、さらに決算説明会にも参加して情報を得ています。
そして、企業の担当者から今後の見通しについて話を聞く際には、その説明内容だけでなく、受け答えのニュアンスや声色なども含めて、記者が総合的に判断。予想値の検討材料とし、独自の業績予想を作成しているのです。

データはどれくらいの頻度で更新されるのでしょうか。
『会社四季報』は年4回発行されるため、そのたびにアンケート調査や取材を実施しています。企業から業績予想の修正が開示された場合には、その内容を追跡し、独自の予想にも反映しています。
また、それ以外のデータベースについても年1回程度更新し、一度作成した情報をそのままにするのではなく、継続的にアップデートを重ねることで、常に最新の企業情報を提供できる体制を整えています。
こうした適時性も当社のデータベースの強みです。
継続的な取材やアンケートを通じて企業との関係性を築いているのですね。
そうですね。定期的に情報を更新しているため、取材やアンケートの窓口となる企業の担当者の方と日常的にやりとりが発生します。アンケートを通じてコミュニケーションを取ることで関係性を築き、アンケートは高い回答率を維持しています。
また、長年にわたり企業のさまざまな数値を追いかけているため、過去のデータとの整合性が取れない数値に気がつくこともあります。
その場合には、回答数値の定義が掲載基準と異なっていないかなどを確認するため、企業へ問い合わせを行います。単に回答を反映するのではなく、内容の妥当性を確認した上でデータ化する。こうした対応の積み重ねがデータの信頼性につながっていると考えています。
これまでは、投資先の選定を目的にデータを活用するケースが多かったと思いますが、近年データ利用の目的に変化はありますか。
近年では、営業活動における「顧客リストの作成」や「ターゲット企業の選定」といった目的で、データの活用を検討される企業が増えています。
以前は、営業に関する情報は、各営業担当者が個別に収集・管理しているケースが多く、いわゆる属人化した状態で運用されてきたように思います。
しかし、コロナ禍以降、在宅勤務が普及。対面での情報共有が難しくなったことで、営業に関する情報を組織全体で共有・活用したいというニーズが高まってきました。
こうした背景から、組織で共有可能な企業情報データベースを構築したいという要望や、当社のデータをSFA / CRMといった営業支援ツールに取り込み、自社の仕組みに組み込んで営業活動に活用したいといった引き合いが増えてきています。
当社は幅広いデータ商品を提供しているため、お客様の目的に合うものを提案させていただいています。
こうした流れのなかで、SKYPCEとも連携。現在、「会社プロフィールデータ」「事業構成データ」「関係会社データ」「企業概要データ」「日本の会社データ4万社」という5つのデータベースを提供しています図2。
| 会社プロフィールデータ | 各企業の沿革や主要製品・サービス、業界内での地位・シェアなどを200字程度にまとめた各企業のプロフィールを提供。 |
| 事業構成データ | 部門別の売上構成比率や営業利益率、海外売上高比率を収録。企業の主要事業の判別や各事業の採算性の把握が可能。 |
| 関係会社データ | 上場企業の国内子会社および関連会社のデータベース。上場企業約3,000社の子会社・関連会社約30,000社を収録。 |
| 企業概要データ(上場企業版) | 上場企業の基本属性情報および単独決算・連結決算の財務情報を収録。住所などの基本情報に加えて、売上高・資本金など代表的な財務項目を単独決算・連結決算とも2期ずつ収録。 |
| 日本の会社データ4万社 | 東洋経済新報社が保有する、すべての国内企業約43,000社を収録した企業リストをテキスト形式のファイルで提供。『会社四季報』の上場会社と『会社四季報 未上場会社版』の主要未上場会社、『外資系企業総覧』の在日外資系企業、『日本の企業グループ』の上場企業の子会社・関連会社といった、厳選された企業の基本情報を収録。 |
顧客リストを作成するために、具体的にどのようにデータを活用するのでしょうか。
1つ事例をご紹介します図3。ある企業様が、九州エリアで海外取引を行う企業を対象に、物流支援サービスを展開したいと考えていました。
そこで、ターゲットとなる顧客リストを作成するために、「企業概要データ」と「事業構成データ」の活用をご提案しました。
具体的には、まず「企業概要データ」から、所在地が九州にある企業を抽出し、さらにその中から「事業構成データ」に含まれる海外売上高比率の情報を確認。海外での売上高がある企業は、輸出を行っている可能性が高く、物流支援サービスのターゲットとなり得ると判断できます。このようにデータを活用しながらターゲットを絞り込み、顧客リストを作成しました。
所在地という基本情報と、海外売上高比率という事業に関する指標を組み合わせることで、自社のサービスと親和性の高い企業を効率的に抽出し、営業ターゲットを明確化できたのです。

それはとても効率的な選定方法ですね。
そうですね。幅広い企業の中から営業ターゲットを選定する場合、これを一から調べようとすると多くの時間を要します。まとまった企業データを活用すれば、情報収集を効率化でき、本来注力すべき提案活動により時間を割くことができます。
さらに、企業の事業構成などを把握することで、自社サービスのニーズが見込まれる企業を的確に抽出することも可能です。これにより、ターゲティングの精度向上にもつなげられます。
そのほかのデータは、どのように活用できますか。
例えば、「関係会社データ」を活用することで、上場・未上場を問わず、顧客企業が属するグループ企業の全体像を把握できます。
同一グループ内でシステムの共通化が図られるケースもあるため、自社のシステムを導入した企業の関連会社を把握できれば、営業活動の横展開にもつなげることが可能です。
また、近年はM&Aなどによる業界再編も進んでいます。企業がどのグループに属しているのかという、最新の情報を把握していることで、営業アプローチの対象や優先順位の見直しにも活用できます。
提案内容の検討においてもこれらのデータを活用できるのでしょうか。
もちろんです。お客様への提案を行うにあたり、企業への理解を深めることは重要なポイントです。「会社プロフィールデータ」には、企業の特色や業界におけるポジションなどの最新の情報が簡潔にまとめられており、こうした情報を確認するだけでも、顧客企業の現状を理解できます。
さらに、財務情報などのデータも併せて確認すれば、どのようなニーズや課題を抱えているのかを分析する材料になると思います。これらを踏まえて検討することで、提案の質の向上にもつなげられるのではないでしょうか。
名刺情報 × 企業データの活用で顧客理解を深化できる
では、名刺情報とこれらのデータを組み合わせることのメリットはありますか。
名刺交換によって得られる情報は、いわば営業活動における「点」の情報です。
そこに企業データをひもづけることで、事業内容や企業特性などを把握でき、情報を「面」として捉えることが可能になります。
SKYPCEには役員情報や組織図ツリーという機能もあります。これらの機能とデータを組み合わせれば、より情報を「面」で捉えられそうです。
そうですね。事業構成データからは、どの事業が売り上げの中核を担っているのかを確認できます。このデータに加えて、SKYPCEの組織図ツリーを見ることで、その中核事業を担う部門を把握できます。つまり、会社の“稼ぎ頭”の部署がわかるのです。
これにより、「売り上げの高い部門や利益率が高い領域に対して、積極的に営業活動を行おう」という営業戦略を立てることが可能だと思います。図4

また、基本的に営業は、どの「人」にアプローチするかということが、非常に大きなポイントかと思います。どの人物が意思決定に関与しているのか、SKYPCEの役員情報を活用すれば、アプローチ先を効率良く選定できるのではないでしょうか。
このように、企業の事業構造と組織構造を掛け合わせて理解することで、アプローチ先の選定などの戦略を、データに基づいて進められると思います。
データ活用の重要性がよくわかりました。今後、営業DXが進むなかで、データの重要性は変化していくとお考えですか。
これからますますAI活用が広がることが予想されますが、そういったなかでも、データは営業活動における重要な基盤であると考えています。
現在すでに、多くの営業担当者が、AIを活用した顧客の情報収集、提案資料の作成といった業務の効率化に取り組まれています。
その一方で、AIが生成する情報には、いわゆるハルシネーションと呼ばれる誤りが含まれる懸念があり、不正確な情報が出力されるリスクも指摘されています。
こうした誤った情報を基に営業活動を行った場合、企業の事業構成や組織体制についての理解を誤り、本来アプローチすべき部門やタイミングを見誤ってしまう可能性もあります。その結果、提案内容の妥当性を損なうだけでなく、取引先との信頼関係を損なうことにもつながりかねません。
そのため、AIを活用する際には、信頼性の高い企業情報を基盤として活用することが重要です。
営業DXが今後さらに進展するなかでも、正確な企業情報をデータベースとして整備し、それを基に営業活動を進める重要性は今後も変わらないと考えています。
(「SKYPCE NEWS Vol.24」 2026年5月掲載 / 2026年3月取材)