応酬話法とは、顧客に営業トークをするなかで否定的な意見を受け取ったり、会話に詰まったりしてしまった際に役立つテクニックです。応酬話法は、適切に活用することで顧客との信頼関係を深めたり、成約率を向上させたりすることが期待できますが、扱う際には気をつけなければいけない点もあります。この記事では、応酬話法の重要性や話法の例、注意点、練習方法などをご紹介します。
応酬話法とは
応酬話法は「おうしゅうわほう」と読み、顧客の反応に対して適切な切り返しを行い、営業トークを滞らせることなく進める話法を指します。顧客から「忙しいので結構です」「社内で検討するのでいったん保留します」など、取引を断るような否定的な反応をされたときに応酬話法でうまく切り返すことで、スムーズに営業トークを続けられ、再度アプローチを試みることができます。応酬話法は「切り返し話法」や「切り返しトーク」と呼ばれることもあり、それぞれ意味は同じです。応酬話法には寄り添い法やYes and法など、さまざまな話法が含まれます。具体的な話法については、後ほど詳しくご紹介します。
営業トークのさまざまな場面で活用できる
営業トークは、基本的に次のような流れで進行します。
● あいさつ
● アイスブレーク
● ヒアリング
● 提案
● クロージング
応酬話法には、ヒアリングで役立つ話法やクロージングで役立つ話法など、それぞれの場面で活用できる話法があります。場面ごとに適した応酬話法を活用することで、営業トークのクオリティを全体的に向上させることが期待できます。
クロージングで使うのが効果的
応酬話法は、営業トークの中でも、特にクロージングの段階で使うのがお勧めです。応酬話法を使ってみたいけれど、どこで使えばよいか迷う場合や、複数の話法を使いこなすのが難しいと感じる場合は、まずはクロージングで使える話法から活用することを意識します。クロージングでは、顧客のボトルネックを払拭したり、成約までの後押しを行ったりするため、クロージングをうまく進行できることによって成約へつながる可能性も高まります。クロージングで顧客の不安を取り除き、背中を押せるような切り返しを行うことで、成約率の向上が期待できます。
応酬話法が重要とされる理由
応酬話法は、営業トークにおけるテクニックの一つとして重要視されています。営業トークにおいて重要視されている理由は、次のとおりです。
顧客の悩みや課題、ニーズを引き出しやすい
顧客の悩みや課題、ニーズを理解するためには、顧客と信頼関係を築き、警戒心を解くことが大切です。このとき、最初のあいさつやアイスブレークで応酬話法を活用し顧客に親近感を抱かせたり、ヒアリングで顧客の話す内容に共感を示したりすることで、「この営業担当者なら悩みを理解してくれるのではないか」「この営業担当者になら悩みを話してもいいかもしれない」と、心を開いてもらえる可能性があります。
営業トークのスキルが向上する
応酬話法を活用することで、会話の幅が広がり、営業トークのスキル向上が期待できます。顧客に心を開いてもらったり、信頼感を抱いてもらったりするためには、コミュニケーションを通じて顧客との距離を縮め、顧客の課題やニーズを正確に把握することが重要です。応酬話法を用いて会話を途切れさせずに進行することで、限られた時間の中で顧客からさまざまな情報を引き出せるようになり、顧客との良好な関係構築にもつながります。
営業トークがスムーズに進む
応酬話法では、顧客に寄り添う話法や、顧客が答えやすいように質問する話法などがあります。営業トークを進めるなかで、顧客が回答に詰まってしまう場面や、顧客からネガティブな意見をもらい返答に困ってしまう場面などがあるかもしれません。このとき、応酬話法を活用してうまく切り返すことで、会話の流れを止めずに営業トークを続けられます。顧客との信頼関係を築くためには、一方的に話すのではなく、顧客の話を聞き、より多くの情報を引き出すことが大切です。会話を滞りなく進めるための手段として、応酬話法が有効です。
成約率向上が期待できる
応酬話法で切り返すことで、顧客が成約に踏み切れない理由を見つけたり、成約への後押しをしたりすることができます。顧客が否定的な反応を示した際でも、「このような条件であれば成約したいと思いますか?」など、自社と顧客の双方が納得のいく条件を探り、成約へつなげることが大切です。応酬話法を活用することで、自社の成約率の向上も期待できます。
応酬話法の例
ここでは、営業トークの中で使える応酬話法の例をいくつかご紹介します。現在の営業トークにプラスできそうな話法があれば、ぜひご活用ください。
肯定法
肯定法は、バックトラッキング法や理解話法とも呼ばれ、顧客の意見を受け入れた上で自身の主張をさらに強める話法です。例えば、顧客から「今は必要ない」と言われた際は、「確かに、現在の状況だと必要ないかもしれません。しかし、そのような状況だからこそお試しいただきたいと思っています」「おっしゃるとおり、〇〇が難しいかもしれません。けれど、難しいと感じるからこそ、弊社のサービスがお勧めです」というように顧客の状況を踏まえた上で自身の主張を強めます。顧客の意見を否定せずに主張できるため、顧客も「話を聞いてもらった上で提案してくれている」と信頼感を抱き、提案に納得してくれる可能性が高まります。
寄り添い法
寄り添い法はヒアリングでよく使われ、顧客の話す内容に共感しながら「一緒に課題を解決したい」と寄り添う意思を示す話法です。例えば、「確かに、〇〇を継続するのは大変ですし、長期的に見ると不安を感じる気持ちにも共感できます。御社で安心して〇〇を継続できる方法を一緒に見つけられればと思います」と、共感や協力の姿勢を示すことで、顧客が安心感を抱きやすくなります。それにより「ほかにはこのような部分で悩んでいる」などとさらに課題を引き出したり、「特にこのような部分が心配で、〇〇をしようとしている」などと課題を深掘った内容や、顧客の企業方針などを聞き出せたりする可能性が高まります。
Yes and法
Yes and法は、顧客の意見を受け入れた上で、顧客の意見につけ加えるかたちで自身の主張を伝える話法です。例えば、「機能が複雑で使いづらそう」という意見を言われた場合は、「おっしゃるとおり、機能の数が多いため慣れるまで時間が掛かるかもしれません。弊社のサービスではよく使う機能をグループ分けし、必要な機能に絞り込んで使用できる機能も実装しています」など、顧客の意見を反映させた上で自社商品のメリットを伝えることで、顧客の不安要素を1つずつ払拭することができます。Yes and法は、クロージングの段階でよく使われます。
Yes but法
Yes but法は、Yes and法とは反対に、顧客の意見を受け入れた上で反対意見を伝える話法です。顧客からの否定的な意見にそのまま反論してしまうと、顧客はかえって警戒心を強めたり、敵対心を抱いてしまったりする恐れがあります。そのため、ただ反論をするのではなく、顧客の意見に一度共感を示し、「自身のことを理解してくれている」と思わせることで、敵対心を抱かせずに営業トークを進められる可能性が高まります。
例えば、「今は必要ない」という意見を言われた場合は、「確かに今は〇〇を利用しているので必要ないかもしれません。しかし、弊社のサービスでは、〇〇では実現できない〇〇や〇〇の改善にも役立ちます」といったように「確かに~、しかし~」「もちろん~、ですが~」「おっしゃるとおり~、ただ~」などのフレーズを使うことでYes but法が使えます。Yes but法は、Yes and法と同じくクロージングで使われることが多いため、2つを併せて覚えておくのがお勧めです。
例え話法
例え話法は、例え話を用いて顧客の購買意欲を高めたり、自社の商品やサービスの解像度を高めたりする話法です。「例えば、弊社のサービスを導入している〇〇社様では、〇〇の結果が〇〇%改善しました」「例えば、御社で弊社のサービスを〇か月利用すると、〇〇率が〇〇%ほど向上します」「もし、御社で弊社のサービスを導入し〇〇機能を活用する場合、どのように感じますか?」など、他社の事例や実際に商品やサービスを利用した際の予測を提示したり、顧客に商品やサービスを導入した際の状況をイメージしてもらったりする方法が挙げられます。例え話法を用いることで、自社の主張の説得力を高められます。
質問話法
質問話法は、顧客に質問をしながら課題やニーズを探る話法で、アイスブレークやヒアリングでよく使われます。例えば、「〇〇をもっと効率化させたい」という話を顧客から聞いた際は、「〇〇や〇〇は利用していますか?」「月にどのくらいの頻度で〇〇を行っていますか?」「何人で〇〇に取り組んでいますか?」など、顧客への質問を繰り返しながら、顧客自身も気づいていない課題やニーズを見つけます。質問に対して顧客から回答が得られた際は、回答の内容をさらに深掘りした質問をすることで、さらに詳しく話を聞き出せます。質問をしながら、「課題はここにあるのではないか」と仮説を立て、最適な提案内容は何か判断することも意識すると、スムーズに提案まで進めます。
否定法
否定法は、顧客のネガティブな意見を否定する話法で、商品やサービスに対してポジティブな印象を与える際に使われます。例えば、「サービス自体には魅力を感じているが、自社で無理なく扱えるか心配」という意見を言われた際は、「心配はいりません。弊社では、24時間対応の問い合わせ窓口を用意しており、導入時から導入後まで徹底的にサポートいたします」といったように、顧客の不安を取り除き、安心感を抱いてもらえる内容につなげます。否定法は、顧客が成約をためらう提案時の商品説明や、クロージングの段階でよく使われます。
ブーメラン法
ブーメラン法は、顧客の否定的な意見を裏返し、プラスのイメージに変える話法です。例えば、「初期費用が高い」という意見を言われた際は、「初期費用は他社様よりも高めですが、初めからすべての機能がお使いいただけるため、追加費用はかかりません。他社様の場合、追加オプションで機能を増やす必要があるため、最終的に高額になるケースも見られます」のように、費用が高いというマイナスのイメージに対して、機能の豊富さというプラスのイメージを伝えることで、サービスの印象をプラスに変えます。顧客が商品やサービスにネガティブな印象を抱いている際や、「自社の商品やサービスを選ばなかったことを後悔してほしくない」という思いを伝える際に活用できます。
資料転換法
資料転換法は、口頭での説明で顧客が理解しづらいときや、会話が滞ってしまったときに、資料やデータを見せることで、営業トークの説得力を上げたり、新たな会話の切り口を作ったりする話法です。「〇〇の効果については、こちらの資料のグラフをご覧ください」「先ほどの〇〇についての詳しいデータはこちらになります」といったように、顧客の理解を助ける資料やデータを複数用意しておくことで会話が行き詰まるリスクが減り、円滑に会話を進められる可能性が高くなります。グラフなどで図解することで「こんなに数値が伸びているなら、このサービスを利用することで効果が期待できるかもしれない」と、成約を後押しする役割もあります。
黙殺法
黙殺法は、聞き流し法とも呼ばれ、顧客からの否定的な意見を受け流し、「ところで、御社では〇〇を行っていると伺いました」「そういえば、〇〇の件について詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか」のように、別の話題に切り替える話法を指します。会話が行き詰まってしまったときや、顧客から課題やニーズが聞き出せないときなど、別の話題でアプローチしたい際に用いるのがお勧めです。ただし、黙殺法は多用しすぎると、顧客に「こちらの話を無視しているのではないか」「都合が悪くなったらはぐらかされてしまう」と不信感を抱かせてしまう恐れもあるため、使う頻度には気をつける必要があります。
応酬話法を使いこなすために注意すべきこと
応酬話法を営業トークの中で使いこなすためには、顧客の前で不自然な話し方にならないよう注意が必要です。例えば、あらかじめ営業トークの流れを示した台本であるトークスクリプトやマニュアルを用意し、流れに沿って進めていた場合でも、顧客からの反応に合わせて臨機応変に対応することが重要です。顧客が現状の悩みについて相談をしようとしているときに、トークスクリプトに沿って自社の商品やサービスのメリットについて説明したり、他社での導入実績を紹介したりしていると、「課題解決よりもとにかく商品やサービスを売りたいのではないか」と、押し売りのような印象を抱かれてしまう恐れがあります。
また、応酬話法を使う際はタイミングにも気をつける必要があります。例えば、顧客の話の内容にかかわらず、ネガティブな意見を受けた際に、毎回Yes but法を用いて「しかし、弊社のサービスでは~」のように自社をアピールする話につなげようとすると、顧客が不快感を抱く場合があります。顧客が課題について話しているときは寄り添い法で共感を示したり、課題を深掘りしたいときは質問法で顧客から多くの情報を引き出したりするなど、顧客の話す内容や状況に応じて適切な話法を使い分けることが大切です。
応酬話法の練習方法
応酬話法を実際の商談の場で使う前に、練習をしておくことで本番でも緊張せず自然に使いこなせることが期待できます。応酬話法のお勧めの練習方法は、次のとおりです。
トークスクリプトやマニュアルを用意する
応酬話法を営業トークの中で活用しやすくするために、あらかじめ応酬話法を扱う際のマニュアルやトークスクリプトを作成するのがお勧めです。顧客の企業や業界によってアプローチの方法や話す内容は変わってくるため、企業の特性に合わせて複数の種類を用意することで、あらゆる企業に対応しやすくなります。マニュアルには、営業トークの大まかな流れを示した上で、ヒアリングやクロージングなどの段階ごとに、顧客の反応に合わせた適切な切り返し方と応酬話法の活用法をまとめます。マニュアルやトークスクリプトが充実していると、新人の営業担当者の育成にも役立ちます。
社内でロールプレーイングする
マニュアルやトークスクリプトが準備できたら、社内の営業担当者同士で顧客役と営業担当者役に分かれ、実際の商談を想定したロールプレーイングを行います。基本的にはマニュアルとトークスクリプトの内容に沿って進行しつつ、顧客の反応に合わせて話題を変えたり、話を深掘りしたりするなどの工夫を心掛けます。商談に臨む前にロールプレーイングを行っておくことで、応酬話法を自然に使えているか、ほかの場所にも応酬話法が使えるのではないか、などと改善点を把握しやすくなります。
上司や先輩からフィードバックをもらう
ロールプレーイングでの改善点を踏まえ実際の商談に臨む際には、上司や先輩に同行してもらい、応酬話法を習得できているか、何を改善するべきか、などのフィードバックをもらうのがお勧めです。営業トークを客観的に見てもらい、フィードバックをもらうことで、自身でも気づかなかった話し方やしぐさの癖、強みや弱みなどが明確になることがあります。
成績が良い営業担当者を参考にする
営業成績の良い担当者の商談に同行し、営業トークを学ぶ方法もお勧めです。顧客との距離の縮め方や応酬話法の取り入れ方を見ながら、参考になるテクニックがあれば、マニュアルやトークスクリプトの中に追加します。このようにほかの営業担当者の営業トークからインプットを行った後は、再度ロールプレーイングを実施してアウトプットすることで、応酬話法や営業トークのスキルを効率よく身につけることができます。
まとめ
この記事では、応酬話法とは何かを、重要性や話法の例、注意点、練習方法などと併せてご紹介しました。応酬話法は、適切なタイミングで使うことで顧客との会話を円滑に進めたり、顧客に信頼感を抱いてもらえたりするため、営業トークで積極的に活用するのがお勧めです。ぜひ記事内でご紹介した話法や練習方法をご活用ください。