
「SKYPCE」をはじめとする名刺管理サービスを使用する上で、法令の観点から留意しておきたいポイントが多々あります。このコーナーでは、名刺情報や名刺管理サービスにまつわる最新情報について、法律のプロである現役弁護士に解説いただきます。今回は、名刺を紛失したり盗難に遭ったりした場合に、個人情報保護法に基づき個人情報保護委員会への報告や本人への通知を行う必要があるかどうかを解説します。

森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業パートナー弁護士
岡田 淳
東京大学法学部卒業、ハーバード大学ロースクール修了。内閣府「AI戦略会議」構成員、同「AI時代の知的財産権検討会」委員、個人情報保護委員会「個人情報保護政策に関する懇談会」会員、「東京都AI戦略会議」委員などを歴任。主な業務分野として、テクノロジー、知的財産権、個人情報およびサイバーセキュリティ等の案件を手掛ける。

森・濱田松本法律事務所外国法共同事業アソシエイト弁護士
一井 梨緒
早稲田大学法学部卒業。データ・IT、知的財産法、ヘルスケア(薬事・医療)、国際通商法(輸出管理・経済制裁)を中心に、生成AI、個人情報保護法、不正調査、環境法等の幅広い分野の法務を取り扱う。
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オフィス家具メーカーA社では、営業担当者が営業活動で受け取った名刺を会社へ持ち帰り、後日名刺管理サービスへ登録する運用を行っています。営業担当者Bさんは、展示会で多数の名刺を受け取り、その日のうちに会社へ持ち帰る予定でしたが、帰宅途中にかばんの盗難に遭い、中に入っていた名刺もすべて失ってしまいました。一方、営業担当者Cさんは、取引先との商談後、数枚の名刺を紛失してしまいましたが、盗難に遭った形跡はなく、どこかで落としてしまったものと思われます。このような場合、A社は個人情報保護委員会への報告を行う必要はあるのでしょうか。
名刺の盗難に遭った場合(Bさんのケース)
個人情報保護法では、「個人データ」の漏えい等が発生し(又はそのおそれがあり)、個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして規則が定める一定の類型に該当する場合には、個人情報取扱事業者は、個人情報保護委員会への報告および本人への通知を行わなければなりません(個人情報保護法第26条第1項、第2項、同法施行規則第7条)。
営業担当者が受け取った紙の名刺には、氏名、所属、役職、電話番号およびメールアドレスなどが記載されており、これらは「個人情報」(同法第2条第1項)に該当します。もっとも、営業担当者が名刺帳や名刺管理サービスで整理して保管する前の段階として受け取った名刺を単に保管しているだけでは、通常は体系的に整理された「個人情報データベース等」(同法第16条第1項)を構成するものとはいえず、当該名刺に記載された情報はただちに「個人データ」(同法第16条第3項)に該当するものではありません。
しかし、報告等が必要となる類型のうち、盗難や不正アクセスといった「不正の目的をもって行われたおそれ」のある漏えい等との関係では、この点について特則が設けられています。すなわち、個人情報保護法施行規則第7条第3号は、単なる個人情報であっても「個人データとして取り扱われることが予定されて」いれば、報告等の義務の対象となることを明らかにしています。
従って、営業担当者が営業活動において取得した名刺について、一定の規則に従った名刺帳へのファイリングや名刺管理サービスへの登録が予定されている場合には、Bさんのようにファイリングや登録前の段階における名刺の盗難であっても、同法施行規則第7条第3号の対象となり得ます。
名刺を紛失した場合(Cさんのケース)
もっとも、以上のように「個人データ」となる前段階での「個人情報」の漏えい等にまで報告等の義務が発生するのは、同法施行規則第7条第3号の類型(「不正の目的をもって行われたおそれがある」場合)だけです。
Cさんのように営業担当者が名刺を落としてしまった、または所在不明となったといった単なる紛失であって、盗難に遭った形跡がないケースについては、Bさんのように盗難に遭ったという場合と異なり、「不正の目的をもって行われたおそれがある」とは評価し難いことが多く、その場合には報告等の義務も生じないと考えられます。
まとめ
このように、営業担当者が保有する紙の名刺は、それ自体では通常「個人データ」には該当しない可能性が高いものの、一定の規則に従った名刺帳へのファイリングや名刺管理サービスへの登録が予定されている場合には、不正アクセスや盗難といった類型の漏えいが発生したときに個人情報保護委員会への報告や本人への通知が必要な「個人データとして取り扱われることが予定されている個人情報」として取り扱われる可能性があります。従って、名刺帳へのファイリングや名刺管理サービスへの登録前であっても、営業担当者が保有する名刺について適切な管理を行うとともに、盗難・紛失が生じた場合の報告フローをあらかじめ整備しておくことが重要です【図】。

(「SKYPCE NEWS Vol.26」 2026年9月掲載)