連載企画
集めた名刺・顧客データはしっかり生かす! 初めてのコンテンツマーケティング 第1回顧客は誰なのか?―― 顧客解像度を上げる


株式会社IDEATECH 取締役
競 仁志 氏
2013年株式会社ネットプロテクションズへ入社。その後自身で会社を創業。2020年より株式会社IDEATECHの取締役へと就任。リサーチマーケティング「リサピー®」事業の立ち上げ・推進の責任者となる。10以上の商品を開発。BtoB領域のPR・マーケティング・セールスを「コンテンツ」で統合し、売上向上を実現するコンテンツマーケティング・コンテンツセールス・コンテンツPRの支援を実施。
https://ideatech.jp/
「コンテンツマーケティング」を考える出発点は、
「顧客は誰なのか?」を
徹底的に言葉にすることから始まる
「顧客は
徹底的に
イベントや展示会で交換した名刺の束。オフィスの引き出しにしまったきり、もしくはデータ化だけして放置していませんか。
CRMやExcelに名刺情報だけがたまっていき、気づけば一度もコンタクトしていないリストが社内に大量に眠っている。いわゆる「永眠顧客」の山です。「そのうち何かに使おう」と思いながら、結局そのまま。心当たりのある方は、少なくないと思います。
こうした状況を打開する手段の一つが「コンテンツマーケティング」です。
ただ、「コンテンツマーケティング」と聞くと、まず「SEO施策をしなければ」「記事をたくさん作らないと」と考える方も多いかもしれません。そして「なんだか難しそうだ」「うちには対応できるリソースがない」と、そこで止まってしまう・・・・・・。これは、非常にもったいない状況です。
そもそも、コンテンツマーケティングにしっかり取り組んでいる中小企業は、実はまだそう多くありません。だからこそ、やっているだけで競合との差別化になる。一方で、「頑張ってコンテンツを作っているのに、いまいち成果が出ない」という声も同時に耳にします。その原因はだいたい決まっており、「コンテンツを作る前に、何から考えればいいか」が、すっぽり抜け落ちてしまっていることが理由です。
コンテンツの判断基準は「個人情報と引き換えにしてでも欲しいか」
そもそも「コンテンツ」とは何でしょうか。さまざまな定義がありますが、私はこう考えています。
お客様や見込み顧客が「この情報が欲しかった」「これは役に立つ」「共感する」「もっと深く知りたい」と感じてくれるもの、それがコンテンツです。
もう少し踏み込んだ判断基準を持つとすれば、「自分の個人情報であるメールアドレスや電話番号、名前を渡してまでダウンロードしたいと思えるか」を越えられるものがコンテンツです。
皆さんも、資料をダウンロードする際にフォームに個人情報を入力した経験があると思います。そのとき、情報を渡してでも手に入れたいと思えるレベルのもの、そこを目指すことがコンテンツのゴールです。
そう考えると、数の勝負ではないと言えます。まず質の高いコンテンツを10~15個作ることが、わかりやすい目標となります。やみくもに量産するのではなく、「この人がこれを見たら、絶対にダウンロードするだろうな」と確信できるものを、10個だけでもいいのでまずは作る。中途半端な品質のものを100個作るより、ずっと成果につながります。

出発点は「顧客は誰なのか」を徹底的に言葉にすること
では、そのコンテンツをどう考えればいいのか。答えはシンプルです。「自分たちの顧客は誰なのか」を、徹底的に言葉にする。これが出発点です。
いわゆるペルソナと呼ばれるものに近いですが、よくあるペルソナ設計ではどうしても表面的になりがちです。例えば、「製造業で、従業員100名規模」という表現。こう定義している方は多いですが、これではぼんやりしすぎていて、質の高いコンテンツは作れません。
私が大事にしているのは、ダウンロードする人が「あの人だ!」と顔が浮かぶかどうかです。過去に名刺交換をした、あの会社のあの人。今の取引先のあの担当者。「あの人なら、きっとこのコンテンツをダウンロードするだろうな」と思えるぐらい、具体的な一人の顔が浮かぶところまで、顧客像の解像度を上げることが理想だと考えています。
ドラマで会社員が出てくるシーンを想像してみてください。例えば、商社に勤めている主人公が、ハラハラするような案件に取り組んでいる。観ていると「この人、ここで困っているんだな」とわかります。そのくらいの鮮明さで自分たちの顧客を捉えたい。映像として見えるぐらいまで、解像度を上げていく。
この過程で、必ず出てくるのが「うちの商品はいろいろな業界で使われているから、一つに特定できない」という言葉です。
気持ちはよくわかります。実際にそのとおりです。ただ、コンテンツを考える上では、対象を広げれば広げるほど、誰にも響かないものになってしまう。特にBtoBの世界では、消費財と違って業界ごとに求められる情報がまったく異なります。「みんなに向けたもの」ではなく、「この業界のためだけにある」と感じてもらえるものこそが、読まれるコンテンツになります。
だからこそ、まずは自社にとって売上のインパクトが大きい顧客像から着手する。全方位で一気にやろうとせず、絞って始めることが重要です。
顧客解像度を上げる「10の問い」
顧客解像度を上げるために、私は以下のような「10の問い」を立てることを推奨しています。一つずつ、自分たちの言葉で回答してみてください。
最初の3つである企業規模・部署・業界は、基本情報として整理しやすいと思います。ポイントは、4つ目以降の問いです。
特に注目していただきたいのが、5つ目の「何を評価されると出世するか」。ここまで踏み込んで考えている方は多くありません。しかし、この問いに答えられると、コンテンツの方向性が一気に明確になります。
例を出しましょう。仮に名刺管理システムのコンテンツを作るとします。ターゲットが営業部長なら、「名刺管理を通じて、部全体の売上がどう伸びるか」「営業ノウハウやナレッジを組織として統一し、底上げする方法」といった切り口が響くと考えられます。営業部長にとってのミッションは、個々の案件ではなく組織全体の数字を引き上げることだからです。
一方、現場の営業担当者に向けるのであれば、話はまったく変わります。「お客様にすぐにコンタクトを取れる方法」「メール返信や日々の細かい営業業務をいかにスムーズにできるか」といった、目の前の案件に直結する情報の方が響くでしょう。
同じテーマのコンテンツでも、読む人の立場によって作るべき内容はまるで違う。だからこそ「顧客は誰なのか」を具体化せずに、いきなりコンテンツを考え始めると、方向性が定まらず混乱します。

名刺データは「顧客解像度」を上げるための宝の山
ここで生きてくるのが、皆さんがすでにお持ちの名刺データです。
名刺データには企業名や部署、役職、名前が記載されています。5,000枚のデータがあれば「どの業界が多いのか」「多いのは役職者か、一般社員か」「接点のある部署はどこか」といった傾向が見えてきます。
これはつまり、先ほどの10の問いに対するヒントの宝庫です。大量の名刺をただの連絡先リストとして眠らせておくのはもったいないことです。
最近ではAI-OCRの精度が大幅に向上し、名刺をスキャンするだけで、高い精度でデータ化できるようになりました。SKYPCEのようなツールを使えば、凝ったレイアウトの名刺でもAIが正しい項目に振り分けてデータ化してくれますし、「あいまい検索」機能を使えば正確な社名がわからなくても目当ての企業情報にたどり着ける。名刺データを「使える状態」にするハードルは、以前と比べて格段に下がっています。
AIを「壁打ち相手」にして、顧客像を磨いていく
名刺データから傾向が見えてきたら、次のステップとして、AIとの対話をお勧めします。
「うちのお客様はこういう業界の人が多くて、こういう役職の人が中心で、こういう課題を抱えていると思う。もっと顧客像を掘り下げたいんだけど、考えてくれないか」。このようにAIに投げかけてみてください。
先ほどの10の問いに対する回答を一つずつ整理して、自社の事業内容や商品情報と一緒にAIに読み込ませると、自分たちだけでは出てこなかった視点や切り口が返ってくることがあります。AIは完璧な答えをくれるわけではありませんが、「自分たちの思い込み」を崩してくれる「壁打ち相手」としては非常に優秀です。
経営者や営業担当者の肌感覚と、名刺データから見えてくるファクトと、AIの視点。この3つを掛け合わせることで、顧客解像度は飛躍的に上がっていきます。
「この人に届けたい」を言葉にすることが、すべての起点になる
コンテンツマーケティングの第一歩は、コンテンツを作ることではありません。「誰に届けたいのか」をとことん言葉にすることです。
名刺データを見返し、10の問いに向き合い、AIとも壁打ちをしながら、「あの人だ」と顔が浮かぶ顧客像を描いてみてください。ここさえしっかりできれば、作るべきコンテンツのテーマは自然と見えてきます。そして、個人情報と引き換えにしてでも「欲しい」と思ってもらえるレベルのコンテンツを、まずは10個作る。ここを目標に取り組んでみましょう。
次回の第2回では、顧客解像度が上がった後に最初に取り組むべき「事例を活用したコンテンツマーケティング」の考え方についてお伝えしていきます。
(「SKYPCE NEWS Vol.24」 2026年6月掲載)