AI時代に成果を出すための「心得」とは?知識と経験を土台に、AIを生かせる営業組織へ

ここ数年のうちに「ChatGPT」や「Gemini」をはじめとする、生成AIへの注目が急速に高まっています。日々、営業活動やマネジメントに向き合うなかで、「AIをどのように活用していいのかわからない」「AI活用で本当に営業成果は上がるのか」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、株式会社セレブリックス 取締役 執行役員 CMOの今井 晶也 氏に、マネジメントと現場の両視点から、AI時代における営業組織づくりの考え方と、成果につなげるための実践的なヒントを伺いました。

株式会社セレブリックス
取締役 執行役員 CMO
市場開発本部 本部長 兼
セレブリックス営業総合研究所 所長
今井 晶也 氏 氏
セレブリックス営業総合研究所の所長兼セールスエバンジェリストとして、法人営業・購買・AI営業の最前線で研究や情報発信を行う。著書に『Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術』、『お客様が教えてくれた「されたい」営業』、『The Intelligent Sales~AIを活用した最速・最良でクリエイティブな営業プロセス~』などがあり、累計発行部数は10万部を突破。現在は取締役 執行役員CMOとしてマーケティング戦略や新規事業開発を牽引。営業プラットフォーム『YEALE』、『Japan Sales Collection』の監修や、Everything DiSC®認定トレーナーとしても幅広く活動している。
AIを「使うかどうか」ではなく
「どう活用するか」というフェーズに
「どう
営業でのAI活用を研究し始めるようになったきっかけを教えてください。
セレブリックス営業総合研究所は、AI活用だけでなく、営業活動全般に関する調査・分析を行う研究機関です。経営やマーケティングは、学問になっている一方、日本において営業はまだまだ学問ではなく、人間関係の中の営みの一つだと思われがちです。今後、人口減少が進むなかで生産性を向上させるには、営業を科学的・工学的に捉えていく必要があると考え、研究所を立ち上げて活動を続けてきました。
そうしたなかで、GPT-4がリリースされて話題になったとき、AIの有識者の方があるデモンストレーションをしてくれました。それは、YouTubeや書籍、コラムなどで、私が発信した内容を基に、“AI今井”を作るというものです。その“AI今井”とのやりとりを見たとき、精度の高さに衝撃を受けました。
これからは、AIを使える営業とそうでない営業では、“とてつもない”差が生まれる。そう強く感じ、最重要・最緊急テーマとして、AIと営業のあり方を研究し始めました。
具体的にはどういった研究をされているのですか。
営業のどのプロセスをAIが代替できるのかという営業側の視点と、お客様が商品を知ってから購入に至るまでのプロセス(購買行動モデル)の中で、どのフェーズをAIが担えばよいのかという顧客体験の視点、この2つの軸で研究しています。
そうした研究の背景として、国内企業でのAI活用は、現在どういった段階にあるのでしょうか。
セレブリックス営業総合研究所の2025年の調査によれば、生成AIツールやサービスを導入している企業は約7割。そのうち、「毎日利用している」という割合は2割程度にとどまります。つまり、生成AIがまだ日常業務のパートナーになり切れていないのが現状です。その背景には、AIの具体的な活用方法が想像できていないという課題があると考えられます。
ただ一方で、生成AIを前提とした業務設計や組織づくりは、今後ますます進んでいくことが予想されます。AIを「使うかどうか」ではなく、「どう活用するか」が問われるフェーズに入りつつある。そうした環境変化のなかで、AI活用に踏み出せていないこと自体が、組織にとってリスクになりかねない状況になってきていると感じています。
では生成AIをどのように活用していけばよいのでしょうか。
「マネジメント層」と「営業担当者」の2つの視点でお話ししたいと思います。まずはマネジメント層ですが、マネジメントには、指標管理、行動管理、案件管理、意欲管理の4つの役割があり、私はそれぞれの役割において生成AIを活用できると考えています。図1

組織目標をメンバー一人ひとりのレベルに落とし込み(指標管理)、伴走しながら案件を進めて成果を出し(行動管理、案件管理)、その達成体験から意欲を高める(意欲管理)。私は、この循環をどう早く、どう確実に回せるかが、マネジメントの本質だと考えています。
AI × 営業データで、
“感覚”に頼るマネジメントから脱却
この役割の中で具体的にAIはどのように活用できるのでしょうか。
例えば、「指標管理」でよく起こるのが「最近頑張っているから、目標を少し高めに設定しよう」といった、マネージャーの“感覚”に頼った目標設定です。そこには、合理的な根拠はありません。メンバーは「なぜ自分の目標だけ高いのか」と不満を抱いてしまうこともあるでしょう。
また、個人の目標が組織目標とひもづいていないために、高い目標を達成したにもかかわらず、評価されにくいといったことも起こってしまうかもしれません。
そこでAIの出番です。手触り感のある適正な目標にするために、各メンバーの過去の営業数値や営業プロセスごとのデータ、そして組織全体の目標や進捗率などのデータをAIに読み込ませることで、データに基づいて、一人ひとりにパーソナライズされた目標を設定できます。
読み込ませるデータとしては具体的にどういったものがあるのでしょうか。
理想を言えば、営業に関する詳細なデータです。私たちは営業のプロセスを7つの段階に分解しています。このプロセスごとに進捗をデータ化できれば、極めて精度の高い分析が可能です。
ただ、営業プロセスを7つまで細分化することが難しい場合もあるかもしれません。その場合は、もっと簡単に「①顧客リスト作成 → ②アポイント → ③提案 → ④受注」というプロセスに分解し、リスト数からアポイント数、提案数、受注数までの移行率を記録していきます。図2

AI活用では「データを蓄積しておくことが大前提」です。各プロセスの移行率がわかる最低限のデータを、まずはきちんと記録しておかなければなりません。
それらのデータは「指標管理」以外にも使えるのですか。
もちろんです。例えば「行動管理」でいえば、一人の担当者の進捗データと目標をAIに読み込ませ、「この担当者のボトルネックは何か。どんな面談をすれば改善を促せるか」と問いかければ、AIは具体的な論点を提示してくれます。
これにより、部下に対して「商談化率は高いけど、そもそも商談数が少ない。この要因についてどう思う?」といった、データに基づいた具体的なコーチングが可能になるのです。「案件管理」についても考え方は同様です。蓄積したデータを基に、状況を捉え、次の打ち手を検討していきます。
「意欲管理」にもデータやAIは活用できるのでしょうか。
「意欲管理」においても、AIに客観的なデータから、モチベーションが下がる要因を分析させることは可能です。AIを「メンバーのコンディションを客観的に分析するパートナー」として活用し、メンバーに声かけをすることで相談しやすい環境づくりにつなげられます。
マネージャーの業務を分解したとき、メンバーと直接対話したり、交渉したり、最終的な責任を負ったりするといった、人間らしい核となる部分は、決してAIには委ねられません。ただ、対話するために必要な素材の提供をAIに委ねることはできます。
AIがなければ、そうしたデータに基づくマネジメントは難しいのでしょうか。
難しいことですが、不可能ではありません。これまで優秀なマネージャーは、AIなしで同様のことを実践してきました。その結果として「マネージャーの属人化」という課題が生まれていました。つまり、“できる”マネージャーの下ではメンバーが育ち、そうではないマネージャーの下では育ちにくい。この差が、現場でよく言われる「営業の属人化」につながるケースは少なくないと思います。
AIは、その属人化を解消する切り札になり得ますか。
少なくとも、その“きっかけ”にはなると思います。AIは、優秀なマネージャーの思考を実践できるよう手助けはしてくれますから。
ただし、今度は「AIを使いこなせるマネージャー」と「そうでないマネージャー」という、新たな属人性が生まれる可能性もあります。単にAIに質問をするだけでなく、AIと高度な対話ができることが大切になってくるのです。
高度な対話とは、具体的にどういうことでしょうか。
AIは基本的に一般論をベースに予測をします。その一般論の回答を見たときに、「ここはもっと深く掘り下げたい」と判断できる軸が必要です。
そのためには、セールスプロセスを正しく設計し、それを的確に言語化して、AIに伝える必要があります。こうした対話ができる人が、AIの恩恵を受けられるのです。
AIなしでもデータに基づいたマネジメントをしてきた、自身の経験や知識を言語化できるマネージャーは、その「土台」があるのでAIの能力を最大限に引き出せます。結局のところ、「土台」が重要だということです。
ですから私は、これから最も注目される教育は、むしろ営業基礎研修なのではないかと思っています。

経験や知識は必須なのですね。では日々の営業活動の中で具体的にどの場面でAIを活用できますか。
私たちは、営業の役割を「目標を達成すること」だと捉えています。そのために「正しいターゲット」に「正しい課題」を設定し、「最適な提案」を行う。この本筋を実現するための一部を、AIに依頼していくイメージです。
ここでは、アポイント獲得後の商談工程、特に商談準備でのAI活用についてお話しします。
商談準備で大事なのは、「仮説を立てる」ことです。新規開拓でお会いするお客様の多くは、製品・サービスを「買う必要性(ニーズ)」にまだ気づいていません。その相手に仮説なしで臨んでも、状況は変わりません。こちらから仮説を提示して初めて、お客様は「ニーズがあること」に気づいてくれるのです。
仮説を立てるためにどのようにAIを活用できるのでしょうか。
ターゲットとなる企業や業界に対する正確な理解が欠かせません。そこで私が実践しているのは「仮想OB・OG訪問」です。AIに訪問したい企業の社員を演じてもらうのです。
例えば、SKYPCEを開発・販売するSky株式会社に営業するなら、AIに「あなたはSKYPCE部門の責任者です。後輩である私に、業界の現状や課題について教えてください」と指示します。
そして、「ライバルはどこか?」「事業を拡大する上での、未来の課題は何か?」といったやりとりを重ねていきます。AIはWeb上の公開情報などを基に、「久しぶり、今井。うちの会社は今ね……」といった具合に、先輩としてリアルに答えてくれます。
まるで、対話形式の企業研究ですね。
もちろん、インターネット上にない情報は推察になるため、「公開されているニュースリリースやIR情報を参照して答えて」といった指示で、事実に基づかせる工夫は必要です。ただ、一方的に資料を読むよりも、はるかに深く、本質的な企業理解につながります。
そのほかにも、初めての業界にアプローチするときは、AIにその業界の内情を深掘りするような「疑似テレビ番組」を作ってもらうこともあります。
例えば、「そうだったんだ、○○企業!」「徹底解剖!○○業界」といったようなイメージです。鋭い切り口で切り込む方を司会者に据え、商談する企業の社長をゲストに登場してもらうのです。図3

複雑な業界構造やビジネスモデルを、無理に覚えるよりも、議論の核心を直感的に理解できるので、有効な準備の仕方の一つです。
面白いですね。情報収集にAI活用はとても有効だと感じました。
そのほかにもAIは、商談前の「壁打ち」相手としても、極めて優秀です。商談では、お客様に「そんな視点があったのか!」という想定外のサプライズを提供できれば、提案の機会が生まれます。
一方で、営業担当者にとっては、商談は想定内である方が望ましい。事前にAIと壁打ちを行い、あらゆる事態を「想定内」にしておけば、本番で焦らず、余裕を持ってお客様と向き合うことができます。
具体的には、どのような壁打ちを行うのでしょうか。
例えば、AIにこう依頼します。「あなたは〇〇社の担当者です。営業担当者からの提案に対して20個反論してください。私がそれに切り返すので、納得できるかどうかを100点満点で採点してください」
こうしたやりとりを繰り返せば、商談で不意を突かれる回数は、劇的に減っていくはずです。
先ほど、AI活用にはデータの蓄積が大前提とおっしゃいましたが、名刺管理サービスのデータも活用できますか。
もちろんです。具体例を2つ紹介しましょう。1つ目は、「タイミング」を捉えたアプローチです。
名刺管理サービスによっては、最新の名刺情報に更新され、お客様の役職が上がったり、部署が変わったりしたときに通知してもらえる機能があります。こうした変化は、その方の「関心事」や「決裁できる範囲」が変わる、絶好のアプローチのタイミングです。
そのタイミングで、「この新しい役職に就いた方は、どのような課題を感じそうか?」とAIに相談し、最適なアプローチメールの文面を作成させるといった活用が可能です。
2つ目は、データを活用した「ターゲティング」の精度向上です。まず、名刺管理サービスの顧客データを、受注・クロージング・提案といったステータスで整理します。
その上で、受注に至った企業にどのような共通点があるのかをAIに分析させると、「成果につながりやすい条件」が見えてきます。次に、その条件を基に、まだ受注できていない企業に対する戦略を考えることで、営業活動の精度を高められるのではないでしょうか。図4

商談の内容を基にAIと対話し、
アウトプットの“質”を高める
アウトプットの
データに基づいたターゲティング、非常に強力ですね。
はい。ここまでお話ししたように、Web上の公開情報を基にAIを使えば、商談前の理解を深めたり、仮説を立てたりすることは十分に可能です。しかし、それだけでは、「誰でも思いつく提案」から一歩抜け出すのは難しい。本当に差がつくのは、AIに何を与えるかです。AIに与える情報によって、その回答の精度には、天と地ほどの差が生まれます。
例えば、Web検索で誰でも手に入るような情報だけを基に提案を考えさせても、出てくるのはありきたりな内容です。「ああ、これはAIが考えたな」とすぐに見抜かれてしまうこともあります。
一方で、「このデータに基づいて」と、自社独自のデータを主語にした瞬間、AIの回答の価値は一変します。その代表例が、名刺情報や営業活動のプロセスデータです。こうした一次情報を基にするからこそ、他社にはまねできない、価値ある提案が生まれます。
それだと、商談の内容などの情報も重要になってきそうです。
そうです。私たちは特に「ファクトファインディング」という、ヒアリングを通じてお客様自身がまだ言語化できていない「深層ニーズ」を捉える工程を大切にしています。
企業の理想や焦点を少し先の未来に置き、「この先、成長していくために何が足りていないのか」を掘り下げてヒアリングしていく。すると、今は表面化していない課題が見えてきます。そこから解決策を提案することが、本来の営業だと考えています。
こうして得られた深い情報をSFA / CRM、名刺管理サービスなどのツールで記録し、AIで分析することで、アウトプットの質は大きく高まります。図5

AI活用は、業務の効率化だけでなく、顧客の課題に寄り添う提案もサポートしてくれるのですね。
そうですね。先ほどお話しした、名刺情報から役職の変化や異動といったタイミングを捉えて営業するという考え方も、その一例です。お客様はきっと、「良いタイミングで営業してきた」と感じると思います。
多くの人が、「営業は嫌われるものだ」と考えがちですが、正しい文脈は少し違います。嫌われるのは「間違ったタイミングで来る営業」です。
困っているときには、むしろ営業を求めているのです。早く課題を解決したいという気持ちが強いほど、営業されることを歓迎するようになります。だからこそ、タイミングを押さえた営業はとても大切です。AIを活用することで、この見極めも効率良く行えるようになります。
ではAIによる効率化で、生み出された時間を何に使うべきなのでしょうか。
実は今まさに、その点が大きな課題になっています。これには「与えられた時間は、使い切ってしまう」というパーキンソンの法則というものが影響しています。
本来であれば、生成AIによって生まれた時間は、商談の数を増やすなど、別の生産活動に使うべきにもかかわらず、実態としては、従来どおり時間を使い切ってしまっているケースが多いのです。この時間の使い方をどう変えるかが、これから解決すべきテーマです。
ここまでAIの活用について伺ってきましたが、もちろん人にしかできないこともありますよね。
もちろんです。営業において大事なことは「話したくなる人になれているか」ということです。この人には情報を出そう、でもこの人には出さない。お客様には、そうした判断が必ずあります。
だからこそ、まず大事になるのは対話です。正しい対話があり、正しい人間関係がある。そうした関係性があってこそAIは価値を発揮します。人間関係を、AIが凌駕することはありません。
セールスプロセスには効率を求められますが、人間関係に効率はない。AI時代においてもそのことを忘れないでほしいと思います。
(「SKYPCE NEWS Vol.23」 2026年4月掲載 / 2026年1月取材)
撮影場所:WeWork アイスバーグ