現役弁護士が解説! 名刺と法令の旬トピ ー第5回ー名刺を私的利用することは許される?

「SKYPCE」をはじめとする名刺管理サービスを使用する上で、法令の観点から留意しておきたいポイントが多々あります。このコーナーでは、名刺情報や名刺管理サービスにまつわる最新情報について、法律のプロである現役弁護士に解説いただきます。今回は、組織の従業員が副業を行う際に、勤務先の社名が入った名刺を使用することが法的に問題になるかどうかを解説します。

森・濱田松本法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士
岡田 淳 氏 氏
東京大学法学部卒業、ハーバード大学ロースクール修了。内閣府「AI戦略会議」構成員、同「AI時代の知的財産権検討会」委員、個人情報保護委員会「個人情報保護政策に関する懇談会」会員、「東京都AI戦略会議」委員などを歴任。主な業務分野として、テクノロジー、知的財産権、個人情報およびサイバーセキュリティ等の案件を手掛ける。

森・濱田松本法律事務所外国法共同事業アソシエイト弁護士
一井 梨緒 氏 氏
早稲田大学法学部卒業。データ・IT、知的財産法、ヘルスケア(薬事・医療)、国際通商法(輸出管理・経済制裁)を中心に、生成AI、個人情報保護法、不正調査、環境法等の幅広い分野の法務を取り扱う。
Bさんは、大学卒業後、憧れだったマスコミ関連企業のA社に就職し、日々真面目に勤務しています。一方で、Bさんは学生時代からWebデザインの仕事に関わっていたため、A社が副業を認めていることもあり、就職した後も副業としてWebデザインの仕事を月に数件受注していました。
ある日、Bさんは以前コーポレートサイトのデザインを担当した企業の担当者から、知り合いがWebデザイナーを探しているという連絡を受け、受注前の顔合わせを行うことになりました。その企業は芸能人・タレントの宣材写真を撮影する会社だったため、Bさんは自分がA社の従業員としてマスコミ業界につながりがあることをアピールすることが有効であると考え、A社の社名が書かれた名刺を手渡しました。無事に案件を受注できたBさんは、A社に所属していることがプラスのアピールになると考え、その後も取引先にA社の社名入りの名刺を手渡していました。
ある日、A社宛てに、「BさんがA社の名前をかたってWebデザインの仕事を受けている」と匿名の連絡があり、BさんがA社の名刺を使って営業を行っていることがA社の知るところとなりました。
このとき、A社はBさんに対してA社の社名入りの名刺を使用したことについて、何らかの処分を行うことはできるでしょうか。
副業が認められていない企業においては副業を行うこと自体が問題になることも考えられますが、本稿では係る点を割愛し、社名入りの名刺を業務外の目的のために使用した場合の問題点を検討します。
1.考え方
従業員に対する懲戒処分については、労働契約法第十五条で以下のとおり定められています。
(懲戒)第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
そして、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことを要するとされています(最二小判平成15年10月10日労判861号5頁〔フジ興産事件〕)。労働者の具体的な行為が就業規則に定められた事由に該当する場合、使用者が労働者を懲戒することができます。
従業員が社名入りの名刺を副業等の個人的なビジネスの勧誘目的で私的利用した場合、名刺の利用との関係では当該行為が就業規則に定められた事由に該当するか否かが問題になります。
例えば、「許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき」という事項が就業規則に含まれる場合、名刺は「会社の施設、物品等」に該当し、副業のために名刺を使用することは「職務以外の目的」に該当するため就業規則に違反する可能性があります。
2.懲戒処分の種類
懲戒処分の種類は軽い順に戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等が挙げられます。いかなる懲戒処分を行うかに当たっては、主に以下の事項が検討されることが多いと考えられます。
① 行為の動機・態様・結果
② 故意または過失の有無・度合い
③ 当該従業員の職責
④ ほかの従業員や社会に与える影響
⑤ 過去の非違行為の有無 等
本件においては、Bさんが自らの副業の受注のために名刺を配付した行為は確かに軽率かつ不適切な行為であったといえます。
しかし、Bさんの勤務態度は真面目であり、行為自体もA社に悪影響を与えることを目的としたものであったとまでは言い難いため、戒告やけん責等の軽微な処分にとどめるのが妥当であると考えられます。
3.その他の場面
政治活動、合コンや婚活パーティー・オフ会等のプライベートな会合において名刺を配付する場合も、業務外での名刺利用という観点からは上記と同様の考え方が妥当します。
また、社名入りの名刺を渡すことで、従業員のプライベートな行動であっても、従業員の発言や振る舞いがそのまま会社の評価に結びつくため、不用意な発言やマナー違反があれば企業イメージの悪化につながるというリスクがあります。そのため、就業規則に記載がある場合はもちろん、記載がない場合であっても原則として業務に関連する場合以外には社用名刺は用いるべきではなく、どうしても名刺を手渡す必要がある場合はプライベート用の名刺を作成することがよいものと考えられます。
(「SKYPCE NEWS Vol.23」 2026年4月掲載)