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日本企業こそ世界一になれる!?名刺文化と強い顧客基盤を生かすABM(アカウント・ ベースド・ マーケティング)

著者:Sky株式会社

名刺文化と強い顧客基盤を生かすABM(アカウント・ ベースド・ マーケティング)

営業・マーケティング活動の効率化が求められる今、既存顧客との関係を深めて売上を最大化する「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)」が注目されています。今回は、日本におけるABMの第一人者であるシンフォニーマーケティング株式会社の庭山 一郎 氏に、ABMの基本的な考え方をはじめ、日本企業ならではの強みについて伺いました。

庭山 一郎

シンフォニーマーケティング株式会社
代表取締役

庭山 一郎

1990年シンフォニーマーケティング株式会社を設立。35年間で約600社の企業に対しBtoBマーケティングのコンサルティングを手がけ、国内外に向けたマーケティング&セールスの戦略立案、組織再編、人材育成などのサービスを提供。海外のBtoBマーケティング関係者と深いつながりを持ち、世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。中央大学大学院ビジネススクール客員教授、早稲田大学大学院 WASEDA NEO 講師、IDN(InterDirect Network)理事。『法人営業は新規を追うな 重要顧客と最高の関係を築くABM』(日経BP)『儲けの科学 The B2B Marketing』(日経BP)など著書多数。

シンフォニーマーケティング株式会社
https://www.symphony-marketing.co.jp/

「ABM」でターゲットになるのは“お得意さま”

まずABMの基本的な考え方について教えていただけますか?

私はABMの定義を「特定の重要顧客と最良の関係を築くことで、強い顧客基盤を構築し、収益を最大化することを目的にした全社的なマーケティング戦略」としています。

ターゲットとなるのは「特定の重要顧客」、つまり“お得意さま”です。例えば、自社に20種類の商材があっても、1社で実際に購入いただいているのは1~2種類だけというケースは少なくありません。また、特定の部署とだけ取引があるというケースも多いのではないでしょうか。

ABMでは、これら重要顧客に対して、購入してもらう商材の種類を増やしたり、別の部署や事業所にアプローチしたりすることで、売上の拡大を目指します。

ABMを行うためには、複数の商材があることが前提ということでしょうか?

そうです。扱う商材が単品だとABMを行う必要はありません。また、顧客が中小企業の場合にもABMは適しません。

中小企業では、意思決定者が少なく、営業担当者が直接コミュニケーションを取ることで、十分に対応できるからです。

一方、大企業になると事情は変わります。複数の事業部や部署が存在し、商材の導入までに、さまざまな意思決定者が関わってきます。アプローチすべき相手が多くなるため、営業担当者だけですべてを把握・対応するのは難しいでしょう。

だからこそ、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)などのツールを活用し、戦略的に情報を整理・共有しながらマーケティングを行う必要があるのです。

ABMは現在、世界のBtoBマーケティングにおいて主流の手法となっています。

ABMが注目されるようになったのはなぜですか?

理由はシンプルです。成果が出るからです。

売上は、「案件を作る」「営業が商談して受注につなげる」「商材の価値を高めて単価を上げる」という3つの要素が必要になります。つまり、マーケティング・営業・ものづくりの各部門が連携して成果を出す構造になっているのです。図1

マーケティング部門の役割は、営業担当者が「これは追いかけたい」と思える、商談につながる魅力的なアポイントを取ること。営業が動いてくれなければ、マーケティングの成果にはつながりません。

米国では、成果を出せないマーケティング担当者は解雇されることも珍しくなく、ABMは、解雇を免れたいマーケティング担当者が試行錯誤の末に行き着いた手法なのです。そのマーケティング担当者は、営業が求めるターゲットに絞ってアポイントを取ったり、すでに関係を築いている既存顧客にアプローチしたりすることで、優先的に営業が動いてくれることに気づきました。

営業にとっても、受注につながる可能性が高い案件であれば、動く理由になります。結果として、営業とマーケティングの双方が成果を出すことができました。

私はこれが、ABMのルーツの一つだと考えています。

売上を最大化するには、マーケティング・営業・ものづくりの連携が重要なのですね。

営業は売上を作る役割を担っているため、どうしても「予算を持っている部署」や「規模の大きい企業」にアプローチしがちです。しかし、予算があるからといって、その相手が自社の商材を必要としているとは限りません。

たとえニーズがあっても、営業が接点を持っていない部署や事業所では、商材の存在すら知られていないことがあります。営業が提案できるのは、あくまで“届いている範囲”だけ。だからこそ、マーケティングが情報を整理し、まだ営業が接点のない部署や事業所に届ける必要があるのです。

さらに、ものづくり部門も重要です。営業がアプローチしている相手が「欲しい」と思える商材を開発・提供することで、より高い価値を提供でき、単価の高い受注につながる可能性が生まれます。

まさに、ABMの定義にある「全社戦略」ということですね。

そうです。ですが、ABMを全社戦略にするためには、営業部門とマーケティング部門の連携が一番の課題と言っても過言ではありません。

繰り返しになりますが、ABMにおけるターゲットは“お得意さま”です。顧客との関係性が深い業界では、アカウントセールスの手法を取り入れているケースも多く、営業担当者は「“俺”が一番お客様を理解している」「“俺”のお客様に勝手に手を出すな」と考えがちです。いわゆる“俺の客”問題です。

ABMを進めるには、営業が持っている名刺情報などの顧客データを社内で一元管理することが不可欠です。

しかし、“俺の客”という意識が強いと、「名刺を共有させてください」とお願いしても反発されたり、「俺の客に勝手に連絡しないでほしい」と言われたりすることもあります。

企業のコンサルティングを行うなかで、こうした摩擦を私自身も何度も経験してきました。

営業担当者と顧客との間にすでに強い関係性があっても、ABMでさらに売上を向上させられるのですか?

もちろんです。一つ事例をご紹介しましょう。図2

ある電子部品メーカーの経営者から「ぜひABMに取り組みたい」と相談がありました。しかし、現場の営業部門、特に売上上位の担当者たちは猛反対。中でも、ある大手企業を担当していたチームは「専任の営業担当者が20人もいて、ビジネスチャンスを見逃すことなどあり得ない」と強く主張していました。

そこで私は反対していた営業部長に「御社の製品情報を届けるべきエンジニアは、顧客企業の中に何人いますか?」と問いかけました。すると「ざっと5,000~6,000人はいる」と言うのです。

「では、20人の営業が定期的に接点を持てているのは何人でしょう? 毎週会っているのが60人、月1回の接点を含めても200人程度。残りの4,800人はノーケアのままでは?」と伝えると、「確かにそうかもしれない」と納得し始めました。

さらに、現在関係性の深いキーパーソンは定年退職が近づいているが、次の世代とは関係性が築けていないこと、接点のない部署も多く存在していることがわかってきました。

そこで私は「ABMは、すでにフォローできている部署や事業所に加えて、手が届いていない部分をマーケティングで補うものです。若手や未接点の部署に情報を届けましょう」と伝えました。

そして、MAツールなどを活用しながら、若手向けに最適化したコンテンツを配信した結果、若手エンジニアが製品に興味を持ち、サンプルを評価。採用される流れが生まれました。

従来の営業活動で、上層部との関係はすでに築かれていたため、スムーズに受注につながり、売上が大きく伸びたのです。こうした結果が得られたことで、社内で話題となり、全社戦略として広がっていきました。

新規の市場を開拓するより、効率的に売上を伸ばせそうです。

まさにそのとおりです。「新しい市場を広げたい」という声はよく聞きますが、私は慎重になるべきだと考えています。

なぜなら新規開拓には人手が必要だからです。営業の人数を増やすことは、営業所や車両などの設備投資も伴います。

コストをかけずに進めようとすれば、既存の営業担当者に無理をさせるしかありません。ですが、現場はすでに手いっぱいです。

顧客データも信頼関係もゼロから築く必要があるため、既存顧客から積み上げる場合と比べて、労力は20倍ともいわれています。

すでに豊富な顧客情報を持っているのに、それを生かさず新規ばかりを追いかける。これは、“宝の山”の上に座って、双眼鏡で遠くの宝を探しているようなものです。

まずは足元を見て掘るべきです。

確かに、すでに持っている顧客データを活用しない手はないですね。

“宝の山”の一つが、営業担当者が持っている名刺情報です。名刺は、非常に重要な資産です。

日本では、名刺交換をした時点で、その名刺に記載された連絡先に情報提供や案内を送ることを承諾したものとみなされます。つまり、マーケティングに活用しやすい特徴があります。

そして、営業担当者一人が持っている名刺は、平均で2,000~3,000枚というケースもあります。上場企業ともなれば、社内に100万枚以上の名刺が蓄積されていることも珍しくないでしょう。

もちろん、営業対象外の情報も含まれますが、20~30万件の有効な顧客データが眠っている可能性があります。

このデータに対してマーケティングを仕掛ければ、成果につながる可能性は十分にあるのです。

名刺はまさに「日本固有の経営資産」なのです。

20~30万件とは、膨大なデータですね。

名刺交換という文化は、コロナ禍以降、欧米ではほとんど見られなくなりました。最近欧州で行われたビジネスカンファレンスに参加しましたが、名刺交換は一度もありませんでした。

そのため欧米では、販売代理店が保有する顧客リスト、SNS上の閲覧履歴や反応、検索エンジンや広告クリックなど、オンライン上の行動データを統合し、「誰が何に関心を持っているか」を分析します。これらの情報を基に、企業は見込み顧客を特定し、アプローチを行っています。

一方日本企業は、担当者に直接連絡できる名刺情報を何十万件も保有しています。これは、世界的に見ても大きな強みです。

名刺はまさに、「日本固有の経営資産」なのです。

ですから、これからABMに取り組む企業が増えれば、名刺を組織で一元管理できるSKYPCEのような名刺管理サービスの価値はより一層高まっていくと思います。

名刺は日本ならではの強みなのですね。

名刺情報だけでなく、顧客との関係性が長期的に築かれているケースが多いことも、ABMに取り組む上でのアドバンテージです。

欧米では転職を前提としたキャリア形成が主流です。40代で10社以上を経験している人もいるほどです。一方、日本の大企業では、新卒入社から定年まで勤め上げる働き方がまだまだ一般的でしょう。

長年の経験に加え、自社製品の旧バージョンまで知っているなど幅広い知識があることは、顧客からの信頼につながる。ABMにとって、非常に有利な土壌です。先ほどご紹介した事例からもわかるように、強い営業組織がある企業こそ、ABMが向いているのです。

だから私は、「日本企業こそがABMで世界一になれる」と本気で考えています。

では、膨大な顧客情報の中から、どのようにターゲットを絞ってアプローチしていくのでしょうか?

日々顧客と向き合う営業担当者の視点は大事です。しかし、すべてを営業任せにするのは危険です。先ほども申し上げたように、営業は予算を持っている部署や規模の大きい企業にアプローチしたがる傾向があります。

売上目標を課されている営業にとって、これまで販売した経験のある商材を提案したり、いつも訪問する事業所を優先したりするのは自然な行動です。

そこで、経営視点の視座を持つマーケティング部門が冷静に「伸びしろのある領域」を見極める必要があるのです。既存顧客の課題を解決でき、競合企業に勝てるだけの強みがある商材を持っている。そんな状況こそ、ABMのターゲットとして最適です。

伸びしろのある領域はどのように見つければよいのでしょうか?

顧客の抱えている課題を見極めることです。課題を解決できない商材を売り込むことはできません。そして、顧客の課題を分析するとともに「顧客がなぜこの商材を購入してくれているのか」といった、自社の価値を分析する必要があります。

その上で「どの商材を、顧客のどの部署に、どう届けるか」という戦略を考えていきます。

ABMを成功させるには、データを分析しながら、最適な戦略を設計したり、ターゲットに届けるコンテンツを制作したりと、専門的なスキルが不可欠なのです。

それにはナレッジとテクニックが必要になりそうですね。

はい。だからこそ、私たちシンフォニーマーケティングのような外部の力をうまく活用していただきたいと思っています。

ABMは、知識だけではうまくいきません。私たちが提供できる最大の価値は、現場での実体験です。

例えば、営業が持っている名刺情報をマーケティング部門で活用する際に、名刺を「『提出』してください」と言うと、間違いなく反発されます。「『コピー』させてもらえますか」といったように、名刺を取り上げるというニュアンスにならない伝え方をするのがポイントです。

細かいようですが、営業との信頼関係を損なわないよう、言葉の選び方や進め方には細心の注意が必要なのです。

今は情報や知識が簡単に手に入る時代ですが、体験に基づいたサポートは、多くの企業でABMの実行を支援してきた弊社の強みです。

「ABMに取り組みたいが、何から始めればいいかわからない」「役員や幹部向けに勉強会をしてほしい」など、弊社にはさまざまな相談が寄せられています。

ABMは、知識だけでなく、現場の空気を読み、組織の文化に合わせて進める“実践力”が問われる取り組みです。

そのための伴走支援は、ぜひ私たちのような経験者に頼っていただければと思います。

(「SKYPCE NEWS Vol.22」 2026年2月掲載 / 2025年10月取材)

SKYPCE コラムサイト編集部

SKYPCE コラムサイト編集部は、名刺管理をベースにした営業やマーケティングの施策のほか、営業DXや業務効率化などの各種取り組みに役立つ情報を発信しています。
「SKYPCE」を開発・販売するSky株式会社には、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、ソリューションアーキテクト、JDLA Deep Learning for GENERAL / ENGINEERなどの資格取得者が多数在籍しています。それらの知見をもとに、名刺の管理効率化だけではなく、より戦略的に活用範囲を広げた「名刺によるDXの実現」を目指しています。