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Sky株式会社

公開日2025.12.25

現役弁護士が解説! 名刺と法令の旬トピ ー第3回ー顔写真入りの名刺を使うように社員に求めることはできる?

著者:Sky株式会社

顔写真入りの名刺を使うように社員に求めることはできる?

「SKYPCE」をはじめとする名刺管理サービスを使用する上で、法令の観点から留意しておきたいポイントが多々あります。このコーナーでは、名刺情報や名刺管理サービスにまつわる最新情報について、法律のプロである現役弁護士に解説いただきます。今回は、組織が従業員に対し、顔写真入りの名刺の使用を求めることが可能かどうかを解説します。

岡田 淳 氏

森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業パートナー弁護士

岡田 淳 氏

東京大学法学部卒業、ハーバード大学ロースクール修了。内閣府「AI戦略会議」構成員、同「AI時代の知的財産権検討会」委員、個人情報保護委員会「個人情報保護政策に関する懇談会」会員、「東京都AI戦略会議」委員などを歴任。主な業務分野として、テクノロジー、知的財産権、個人情報およびサイバーセキュリティ等の案件を手掛ける。

一井 梨緒 氏

森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業アソシエイト弁護士

一井 梨緒 氏

早稲田大学法学部卒業。データ・IT、知的財産法、ヘルスケア(薬事・医療)、国際通商法(輸出管理・経済制裁)を中心に、生成AI、個人情報保護法、不正調査、環境法等の幅広い分野の法務を取り扱う。

今回のトピック

事務用品メーカーのA社は、就業規則の名刺規程に従って名刺を使用してきました。ある日A社は、顧客に担当者の顔と名前を覚えてもらうため、顔写真入りの名刺を全従業員分作成し、名刺規程も改定しました。この名刺は取引先からも担当者の顔と名前が覚えやすいと好評です。この秋、他社メーカーからスカウトしたCさんが入社するにあたり、Cさんにも同様に顔写真入りの名刺を使用してもらおうと思っていましたが、Cさんから「前職ではこのような名刺を使っていなかった」と言われ、顔写真入りの名刺の使用を拒否されてしまいました。このとき、A社はCさんに対して顔写真入りの名刺の使用を求めることはできるでしょうか。

1.参考となる裁判例(顔写真の入った胸章に関する事例)

顔写真入りの名刺の使用義務に関する判示を含むものではありませんが、類似した場面に関する裁判例として、社内規程により名前・顔写真等が記載された胸章を着用するよう義務づけることの違法性を検討した東京地判平成23年9月21日(以下「本裁判例」といいます)があります。

具体的には、被告株式会社およびその前身である民営化前の郵政省、郵便事業庁および日本郵政公社において、稼働する職員に対して顔を含む身体の上半身を写した写真および名前が記載された胸章を着用することを義務づける胸章着用要綱・就業規則が存在していたところ、本裁判例では、このような服務規律について、当該企業の運営上必要かつ合理的なものである限り、職員は服すべき義務があるとされています。

そして、本裁判例では【表】の事情を考慮し、被告株式会社において職員に対して胸章を着用するよう義務づけることは、事業運営上その目的および手段に照らして必要かつ合理的なものであり、違法であるということはできないとしました。

2.顔写真入りの名刺についてはどう判断すべきか

胸章は応対した相手に自らの情報を開示するものであるのに対し、名刺は手渡した顧客等に自らの情報を開示するものではあるものの、その趣旨には共通する部分もあり、従業員に対して顔写真入りの名刺を使用させることに関しても本裁判例は一つの参考になるでしょう。そして、本裁判例の指摘からすれば、事業運営の目的および手段に照らして、顔写真入りの名刺を使用するように従業員に求めることが必要かつ合理的なものであるといえる場合には、従業員に対して服務規律に基づき顔写真入りの名刺を使用するよう求めることも許容される可能性はあります。

ただし、その必要性・合理性を判断するに当たっては個別事案ごとに慎重な検討が必要です。本裁判例は郵政民営化直後の郵便事業株式会社および株式会社ゆうちょ銀行を被告として、民営化前の郵政省、郵便事業庁および日本郵政公社時代の規定に関する判断がされており、取り扱い業務にも銀行業務が含まれるなど、特殊性が見られる企業に関する判断であるため、一般企業においてもただちに同様の結論が導かれるとはいい難いとも考えられます。また、近年ではプライバシー保護の意識が高まり、名前等の情報もむやみに公開しないという意識が強まっています。さらに、SNSの発展により本裁判例の当時に比較すると情報の流通速度が格段に速くなっていることから、一度個人情報が拡散されると一瞬で全世界に伝達され、取り返しがつかない状況になってしまうという懸念もあります。なお、名刺は、胸章とは違ってそれ自体を相手方に配付するという点で情報が拡散しやすい側面がある一方で、通りがかった不特定の第三者に見られるわけではなく、渡す相手は基本的に取引先など業務上合理的範囲として選択可能であるといった相違点があります。

このように、服務規律に基づいて顔写真入りの名刺を使用するよう従業員に求める場合は、企業の事業内容、目的、使用態様等の個別の事情を勘案しつつ、許容されるかを丁寧に検討する必要があり、顔写真の掲載を望まない本人の希望に対して個別に配慮する姿勢も大切となります。

(「SKYPCE NEWS Vol.21」 2025年11月掲載)

SKYPCE コラムサイト編集部

SKYPCE コラムサイト編集部は、名刺管理をベースにした営業やマーケティングの施策のほか、営業DXや業務効率化などの各種取り組みに役立つ情報を発信しています。
「SKYPCE」を開発・販売するSky株式会社には、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、ソリューションアーキテクト、JDLA Deep Learning for GENERAL / ENGINEERなどの資格取得者が多数在籍しています。それらの知見をもとに、名刺の管理効率化だけではなく、より戦略的に活用範囲を広げた「名刺によるDXの実現」を目指しています。