ビジネスを取り巻く環境が激しく変化し、未来が予測不可能なVUCA時代と呼ばれる今、時代の流れに取り残されないために、誰もが「学び」を続けなければならないといわれています。さまざまな学びの手法が注目を浴びていますが、その一つがアンラーニングです。
社会人にとっての学びといえば、昨年流行語大賞の候補にもなったリスキリングが有名ですよね。新しいスキルを身につけるリスキリングとアンラーニングとの違いはどこにあるのでしょうか。そこで今回は、アンラーニングとは一体どのような手法なのか、今、必要とされている理由やメリットと併せてご紹介します!
アンラーニングの定義と必要性
アンラーニング(Unlearning)とは、「学習する」という意味の「learning」に、後に続く言葉を打ち消す意味を持つ接頭辞の「un」がついたもの。
一見すると、学びを否定するような意味に取れてしまうかもしれません。しかし、実際の意味は、「自身の知識や技術を見つめ直し、有効ではなくなったものを捨てて、代わりに新たな知識やスキルを学び直すこと」。日本語では、「学習棄却」や「学びほぐし」と訳される手法です。
新たな技術が生まれ、急速に発展している今。現時点でどれだけ有用な知識やスキルであっても、少し時間がたてば役に立たなくなっている……ということが珍しくありません。従来の価値観や方法に固執していると、ビジネスシーンの変化に対応できなくなるというのは昔から言われていることですが、今はその傾向がさらに顕著になっているといえます。自分自身、そして組織全体を時代に即してアップデートしていくために、アンラーニングは必要不可欠なのではないでしょうか。
アンラーニングが組織にもたらす3つのメリット
アンラーニングへの取り組みそのものは個人で行いますが、実は、組織が主導して社員にアンラーニングをさせるべきだといわれています。ここでは、組織的にアンラーニングに取り組むことでもたらされるメリットをご紹介します。
・社員の成長と意識改革
アンラーニングによって社員一人ひとりが時代に即した知識・技術を身につけることで、組織全体の成長につながります。また、過去の成功体験によって凝り固まった価値観もほぐれ、時代に即したアイデアが生まれやすくなるというメリットも。しかし、経験が豊富で、業務知識や技術を十分に身につけているベテランの中には、新たな知識を学ぶことに消極的な人がいるかもしれません。そのような社員に対しては、組織がアンラーニングの重要性を伝え、学習に取り組みやすい環境を整えることが大切です。
・業務効率化
アンラーニングは、既存のルールや業務フローを見直す機会にもなります。「ルールだから」「マニュアルに書いてあるから」と、昔ながらの煩雑な手順で行っている定型業務があるならば、アンラーニングを行うことで工数を削減できるかもしれません。
・変化に強い組織に
ビジネスを取り巻く環境が変化する要因は、テクノロジーの進歩だけではありません。これまでも、リーマンショックやコロナ禍など、不測の事態による影響を受けてきました。従来の価値観に固執していると、このような環境の変化になかなか適応できず、収益を上げられなくなる恐れも。ですが、アンラーニングに取り組んでいれば、従来の方法が今も有効であるかどうかを見極められるようになるため、変化に応じて新たなチャレンジをしやすく、不測の事態にも負けない組織になれるのではないでしょうか。
アンラーニングの進め方
では、実際にアンラーニングに取り組む場合、どのように進めればよいのでしょうか。アンラーニングの手順をご紹介します。
①内省
まずは、自身の持つ知識やスキル、価値観について、客観的な視点で振り返りを行います。社員への内省を促すには、自己評価や360度評価など社内の評価制度を活用するほかに、ワークショップを実施したり、コーチングの機会を提供するといった手法も有効です。
②取捨選択
アンラーニングの肝となるプロセスです。内省によって認知した自身の知識・スキル・価値観を取捨選択していきましょう。大切なのは、自身が身につけたことが、本当に今後のビジネスのなかで必要なのか疑ってみること。ただし、捨てるべき知識やスキル、価値観に気づくことは、自分一人では難しいもの。チームメンバーや上司からフィードバックを受けて、気づきを得る機会を設けましょう。
③実践
“捨てるもの”を明らかにしたら、次は新たな知識・スキル・価値観を学習する段階です。企業は社員の成長に必要な学習の場をつくることはもちろんですが、学習内容を業務で実践する機会を提供することも大切です。
④振り返り
アンラーニングの効果を測定するために、振り返りを行いましょう。社員へのヒアリングやフォローアップ研修、上司との面談などを定期的に行い、新しい知識をどれだけ習得し、活用できているかを確認します。
変化の激しい時代に組織が生き残るために
ビジネスを取り巻く環境が大きく変化するなかで組織が生き残っていくためには、時代にマッチする知識とスキル、そして価値観を持ち合わせていなければなりません。そのためには、新たな学びを得ることの重要性は言うまでもありませんが、ここまで解説してきたように、学ぶ前にまずは今の時代に役に立たない古い知識やスキル、価値観を見直し、不要なものは捨てるのが、アンラーニングの考え方です。
社員一人ひとりがアンラーニングによって凝り固まった思考をほぐすことで、柔軟性に富んだアイデアが出し合えるようになります。皆さまの組織におかれましても、ぜひアンラーニングに取り組まれてみてはいかがでしょうか?